実験中断
《サイド:天城総魔》
午前6時を過ぎたか…。
昨日の午後から実験と検証を繰り返していたのだが、
気がつけばいつの間にか朝を迎えていたようだ。
地下に設立されているルーン研究所から外の様子を窺い知ることは出来ないものの。
時間的に考えればすでに朝日は姿を見せているはずだ。
実験室を見渡して見れば、各地で眠りにつく職員の姿が見えるのだが。
今はそれも仕方がないと思う。
脱落と復帰の繰り返しで十数時間にも及ぶ実験だったからだ。
ほぼ全ての職員が力尽きて倒れ込んでいるが、
この結果は仕方がないだろうな。
かろうじて意識を保っているのは僅か数名だけだ。
西園寺や藤沢達も頭を抱え込む状態で、
まともに動けるのは俺と黒柳ぐらいだろう。
その黒柳でさえも周囲を見渡してため息を吐いている状況だ。
あまり余裕のある状態とは言えないかもしれない。
だからだろうか?
疲れを振り払うために気持ちを切り替えているように見える。
「さすがにこの辺りが限界だな。だがまあ、大筋の検証は終わっているから、一旦、休憩を挟んだ方がいいだろう」
黒柳が休憩を宣言した瞬間に。
「はぁぁぁぁ…。」
辛うじて残っていた西園寺達もその場に崩れ落ちた。
「疲れました…。」
ため息を吐く西園寺は今にも意識を失ってしまいそうに見える。
「せめて、自分の部屋に…」
ふらつく足取りで実験室を出ようとする藤沢も同様だ。
無事に自室へと戻れるかどうかすら疑問を感じる状態だが、
それでも藤沢は実験室を出て行った。
「お風呂に入りたいです…」
疲れきった表情で歩き出す西園寺もふらふらと実験室を出て行った。
そのあとすぐに。
「少し寝てきます」
大宮は少し離れた場所で横になって眠りについた。
「俺も限界かな…?」
峰山も離れた場所で眠りにつく。
その結果。
動けるのは俺と黒柳だけになってしまった。
「死屍累々(ししるいるい)という感じだな」
顎に手を当てる黒柳が俺に振り返る。
「天城君はどうだ?」
「問題ない」
「ふむ。やはりきみは研究者に向いているのかも知れないな。まあ、急ぎはしないがもう一度考えてみてはどうだ?この研究所で働くことをな」
「悪くはないが、俺には俺のやるべきことがあるからな。それが終わるまで一箇所に留まることは出来ないだろう」
「目的か…。終わるあてはあるのか?」
「いや、今はまだ分からないが諦めるつもりはない」
「ふむ。きみが何を求めているのか今は聞かないでおこう。だがもしも話したくなったら何時でも来てくれ、相談に乗ろう」
「ああ、感謝する」
下手に誤魔化さずに素直に感謝したからだろうか?
「ははははっ。」
黒柳は笑顔を浮かべていた。
「とりあえず話は終わりだ。天城君も少し休んだ方がいい。実験はまだまだ続くのだからな」
「ああ、そうだな」
俺も一旦、実験室を出ることにする。
「食事をしてくる。1時間ほどで戻ってくるつもりだが、それでいいか?」
「いや、もう少し遅い方がいいな。この状況では実験の再開は難しそうだからな」
職員がほぼ全滅という状況だからだろう。
すぐに実験を再開するというのは無理があるようだった。
「そうか。だったら午後にでも出直すことにする」
「ああ、そうしてくれ。それまでには準備も整っているだろう」
「分かった。またあとで来る」
食堂に向かうために実験室をあとにした。
次の実験は午後からだ。
それまでどうするか今日の予定を考えながら研究所の外へと足を踏み出してみると。
予想通り研究所の外はすでに朝日が完全に姿を現していた。
早朝と呼ぶべき時間帯だな。
ひとまず食堂に向かって移動することにした。




