応えられない期待
「もう…良いんです。」
絶望を感じて沈み込む僕に言えることなんてもう何もない。
「僕のことは見捨てて下さい。」
期待ハズレだったと言ってもらえれば、
少しは僕の心も救われる気がするんだ。
「僕はもう…終わったんです。」
これからはもう無理をする必要なんてない。
僕は敗者で。
とてもちっぽけな人間だから。
これからはもう誰かの期待を背負う必要はないんだ。
「桐島さん…。今までありがとうございました。」
これまでお世話になったことだけはしっかりとお礼を言ってから、
桐島さんの手を振り払ってこの場所を立ち去ろうとしたんだけど。
「いや、まだだ!!まだ終わらせるつもりはない!」
桐島さんはより強い力で僕の肩をしっかりと掴んできた。
「きみはまだ終わってなどいない!きみの未来はこれからも続いていくんだ!!」
…いえ。
「もう終わっています。」
「まだだっ!!例えきみがどれほどの絶望と直面しようとも!きみを必要としてくれる者達がいることだけは忘れてはいけないんだっ!!」
…そうでしょうか?
「僕にはもう期待に応えるだけの気力がありません。」
夢に敗れた敗者にできることなんて何もないからだ。
「応えられない期待なんて、僕にとっては重荷なだけです。」
「いや!!俺はそうは思わないっ!!きみはまだまだ成長できる!!きみはきみが思う以上に素晴らしい男だからだっ!!それだけは俺が断言する!!!」
…ありがとうございます。
桐島さんの言葉にはとても熱い想いが込められていて、
壊れた僕の心に深く深く響き渡っていった。
…だけど。
それでも僕の絶望が消えるわけじゃないんだ。
「ありがとうございます。桐島さんにそう言ってもらえて嬉しいです。だけど…それでも僕は桐島さんの期待には応えられないと思います。」
一度沈み込んでしまった心はそんな簡単には戻らない。
「僕は…この程度の男だったんです。」
脱落を選んでしまった自分の弱さを今更隠すつもりもなかった。
「僕は…ここまでです。」
これ以上先には進めない。
だからここから逃げ出そうとしていたんだけど。
「俺が何を言っても無駄なんだな?」
桐島さんは悔しそうな表情を浮かべながら最後の質問を投げ掛けてきた。
「どうあっても、きみの心は動かないのだな?」
…はい。
「今までお世話になりました。」
深い悲しみを秘めた瞳で僕を見つめる桐島さんの必死の想いに対して僕に出来ること。
それはせめてもの気持ちを言葉で伝えることだけだった。




