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THE WORLD  作者: SEASONS
5月13日
4162/4820

シェリルの性格

「一応念を押しておくけど。私が話す内容はあくまでも私の推測だから、外れていても怒らないでね。」


「あ、ああ…うん。」


「…で、どこから説明すれば良いか悩むところなんだけど。仮定の話として澤木君とシェリルさんがお互いにお互いを想いあっているとすれば、シェリルさんが澤木君と唯王女との結婚を望む理由が説明できると思うのよね。」



…ごめん。



「僕にはさっぱり分からないよ。」



お互いにお互いを想っているからこそ唯王女との結婚を望む?


そんな無茶苦茶な理論は僕には理解できなかった。



「何をどう考えればそうなるんですか?」


「…これはね。シェリルさんの性格を考えたうえでの結論なのよ。」


「シェリルの性格?」


「ええ、そう。澤木君はシェリルさんの性格をどう考えてる?」



…えっと。



「すごく頭が良くて。すごく優しくて。すごく頼りになって。とても気高いと言うか、誇り高いと言うか。だけど決して傲慢とか自分勝手なんて性格じゃなくて。自分自身に誇りをもって生きているような…そんな感じ…かな。」



シェリルのことはどんなに考えても欠点が見当たらない。


考えれば考えるほど良いところばかりが思い浮かんでしまって、

自分がどれくらいシェリルのことが好きなのか何度も何度も再認識してしまうんだ。



「僕にとっては完璧な女性…かな。」


「ふふっ、羨ましいわね。」


「あっ…ぅぅ…。」



今まで誰にも話したことのないことまで話してしまった僕を見て微笑んでくれる栗原さんの言葉で、

僕は顔が真っ赤になるくらい照れてしまって無意識の内に俯いてしまっていた。



「は、恥ずかしい…。」


「そう?別に良いんじゃない?素直な気持ちを言葉に出来るのはとても素敵なことだと思うわよ。」


「で、でも…恥ずかしいです…。」


「まあ、そうでしょうね。だけど澤木君が思うように私もシェリルさんはとても素敵な女性だと思うわ。とても頭が良くて、瞬時に善悪を判断できてしまう優秀な判断力を尊敬しているの。」


「善悪を…判断?」


「そう、善悪よ。そしてその優秀すぎる判断力がシェリルさんに澤木君との別れを決断させてしまったんでしょうね。だから頭が良すぎるっていうのは、ある意味では悲しい才能なのかもしれないわね。」



…悲しい才能?



頭が良すぎるというのもよく分からないんだけど。


一体、栗原さんは何を指摘しているのだろうか?



「ねえ、澤木君はどう思うかしら?もしも私がどこかの国の王子様に告白されたとして、さらに別のごく普通の男性から告白されたとしたら。澤木君はどちらと付き合うべきだと思う?」


「それは…栗原さんが好きな方と…。」


「どちらも好きだとしたら?」


「だったら…。」



…だとしたら。



「王子様を選んだほうがいいと思わない?」


「そ、それは…っ!」


「それが答えでしょ?」



…っ。



「まあ今の仮説は少し極端かもしれないわね。だけど澤木君が感じている現状はさらに複雑だと思うわ。」



…え?



「複雑?」


「ええ、そうよ。結婚相手の一人は一国のお姫様だけど。もう一人はごく普通の女の子じゃないからよ。」



…ん?


…シェリルが普通じゃない?



「そ、それはどういう…?」


「ねえ、良く考えてみて。シェリルさんの立場は何?」



…シェリルの立場?



「シェリルさんは今まで何をしてきたの?どこで、何をして、生きてきたの?」



…そ、それは。


…シェリルは。



「魔術師ギルドの一員として、共和国の周辺各国を…渡り歩いて…。」



数々の任務を完璧にこなしてきた優秀な密偵として裏の世界で活躍してきたはず。



「…って、まさか…っ!?」


「ようやく気付いたかしら?」



…そんなっ!!



「そんな理由で!?」


「そんな理由が問題なのよ。」


「馬鹿げてる!!たかだか密偵として生きてきたからといって…っ!!」


「たかだか?」


「そうだよっ!そんなくだらない理由で!!」



唯王女との結婚を望む理由が僕には理解できない。



「意味が分からないよっ!!」


「そう。澤木君はそう思うのね。だけど、くだらなくはないわ。シェリルさんは自分の立場をちゃんと考えたうえで澤木君と付き合うことは出来ないと判断したのよ。」


「どうして…っ!?」


「まだ分からない?」


「分からないよっ!」


「そう。だったらはっきりと言ってあげるわね。だからしっかりと聞いてようく考えなさい。」



………。



何もかもが理解できなくて黙り込んでしまった僕に、

栗原さんは究極の二択を迫ってきた。



「単純な価値として澤木君に相応しい相手はどちらだと思う?一方は非の打ち所のない完璧なお姫様。そしてもう一方は裏の世界で暗躍する血にまみれた密偵。そんな二人の女性が並んでいるとして、どちらが国王の妃に相応しいのかしら?」


「そ、それは…っ!」


「よく考えなさい。そしてシェリルさんの気持ちを汲んであげなさい。シェリルさんは自らの立場を考えたうえで、自分では澤木君の支えになれないと判断したのよ。」


「そんな…っ!?」


「まだ分からないのならはっきりと言いましょうか?きっとシェリルさんはこう考えたのよ。『共和国の暗部を担う密偵として数多くの罪を背負ってきた自分では、これから国王として生きていく澤木君の足手まといになる。』と、きっとそう考えたのよ。」


「そ、そん…な…っ。」


「私もね。シェリルさんはとても頭が良くて、とても優しい女性だと思うわ。だからこそシェリルさんは澤木君の将来を考えて、自らの意思で身を引いたのよ。」


「僕の…ために?」


「それ以外の理由は考えられないわ。そしてそう考えることで、あれほどまでに唯王女との婚儀を願っていた真意が説明できるのよ。どうかしら?澤木君はそうは思わない?」



………。



栗原さんに問い掛けられても僕には何も答えられなかった。



…シェリルが僕のために?



僕の将来だけを考えて身を引いた?



その仮説は僕にとって否定できない完璧な説明だった。


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