あいつのことだから
「真哉が倒れたあの日にね。僕は翔子から決戦を持ち掛けられたんだ」
全てはそこから始まったと思う。
僕と彼との時間は、そこから動き始めたと言ってもいい。
「彼との試合を受けたことで。僕はその日の夕方に彼と戦うことになった」
「そして、負けた…か。」
「ああ、負けたよ。」
僕と彼の実力はほぼ互角だったと思う。
だけど最後の最後で、気持ちの差で負けたんだ。
「競り負けたって言うべきかな?」
ホントにちょっとの差だったと思うんだ。
「でもね。僕は勝てなかった。それが事実なんだ」
「…らしいな。そこまでは翔子に聞いたから知ってるつもりだ。だから俺が知りたいのはそのあとのことの話だ」
そのあとか。
だとしたら、あれのことだろうね。
「封印に関してかな?」
「ああ、それだ。力を失ったことは聞いたが、そのあとのことまでは翔子も知らないようだったからな」
だろうね。
「僕はみんなとは別行動をとっていたからね」
「その辺りも聞きたいんだが、そもそも封印って何なんだ?」
疑問だらけの真哉に、まずは右手のシークレットリングを見せることにした。
「この指輪がシークレットリングだよ。この指輪を身につけて願いを込めれば力を封印することが出来るようになるんだ」
「ああ、そいつか。確か翔子も同じ物をつけていたな?」
「そうだよ。僕と翔子。それに彼も身につけているはずだよ」
「ふーん。」
僕の説明を聞いた真哉の視線が指輪に向いている。
その様子を眺めながら、話を進めていくことにした。
「まあ、封印の解除は指輪をとるだけなんだけどね」
「そうなのか?っていうか、封印することに何の意味があるんだ?」
真哉は本当に何も知らないようだね。
だから僕は僕の考えを答えることにした。
「封印の目的はね。可能性を探すことだよ」
「可能性?」
真哉は首を傾げている。
まだ説明が足りないようだね。
「もう少し説明するとね。この指輪と一緒に受け取ったものがあるんだよ。」
受け取ったと言っても、
僕が持ってるわけじゃないんだけどね。
「それは小さな水晶玉で、名前は原始の瞳って言うんだ。その水晶玉を手に持った時に光り輝けば、その人には潜在能力があることが分かるんだよ」
「ほう、そんな便利な物があるのか」
ここまで説明したことで、真哉は話の流れを理解したようだった。
「つまり龍馬は水晶を持って潜在能力があることを知ったってわけだな?」
ああ、そうだよ。
「あの時はまだ何か分からなかったけどね。」
それでも僕は可能性を求めて一からやり直す覚悟を決めたんだ。
その証がこの指輪なんだよ。
「ん?ちょっと待て。今、あの時は、って言ったな?ならすでに潜在能力を理解してるのか?」
「ああ。僕の新たな力は『暴力』だよ。ありとあらゆる能力を破壊する力でもある」
能力を宣言してから、
研究所で実験した内容を真哉に説明することにした。
「ちゃんと魔術研究所で調べたんだよ」
力に覚醒してルーンを使えるようになったこと。
そのあとで各検定会場を勝ち上がってきたこと。
そして現在の番号までを真哉に話した。
「なるほどな。俺が寝てる間に事態はかなり進んでるってことか」
「淳弥の報告だと、翔子も潜在能力に覚醒してるらしいけどね」
「はあっ!?んなこと、翔子からは聞いてねえぞ!?」
「あれ?そうなのかい?一応、真哉がお昼に会場へ来る前に、翔子は淳弥と試合をして、能力に覚醒したらしいよ」
「いや、翔子からは何にも聞いてねえ」
「…ということは、話す暇がなかったのかな?」
「あー、いや、どうだろうな。あいつのことだから多分、説明するのが面倒臭かっただけじゃねえか?」
「さあ?どうだろうね?僕には分からないけれど、翔子も特性に目覚めたらしいよ。翔子の特性は融合で、複数の魔術を掛け合わせる能力らしいね」
「はあ?複数の…って、あれか?天城総魔の…」
真哉の言いたいことを察して、僕は大きく頷いた。
「ああ、使えるようになったみたいだよ。あの魔術を…最強の魔術アルテマをね」
「マジか!?」
「淳弥はアルテマを受けて敗北したらしいからね。その事実は否定出来ないよ」
「ったく、俺がいない間に龍馬も翔子も成長してるってか?寝てただけの俺は、完全に置き去りだな」
置き去りってことはないと思うけど…。
そう思うことを否定できない部分はあるかもしれないね。
「説明が遅くなって、ごめんよ」
「ああ、いや、気にするな。過ぎたことを言ってもしょうがねえからな。それよりも…」
真哉はもう一度僕の指輪に視線を向けて尋ねてきた。
「俺にもあると思うか?」
「潜在能力かい?どうだろうね?僕には分からないよ。気になるなら直接確認してみるしかないと思うけど…」
「その水晶玉ってのはどこにある?」
「彼が持っているはずだよ」
「天城総魔か。確かめてみたいが、どこにいるのかが分からねえな」
「翔子か深海さんにでも尋ねてみれば、見つかるんじゃないかな?」
「ん?ああ、そうそう!それだ!」
二人の名前を出した直後に、真哉は思い出したかのように声をあげた。
「それも聞きたかったんだが、優奈と悠理だったか?あいつらは何なんだ?」
悠理はともかく、深海さんがあの会場で試合をしていたことを真哉は知らないようだね。
だとすれば真哉が疑問を感じるのは当然かな。
「彼女達はまあ、何て言うのかな?説明するのは難しいけれど、一言で言うなら新しい仲間かな?」
「仲間?」
「うん。まあ、『僕達の』というよりは『彼の』って言うべきかもしれないけれどね」
悠理は深海さんの友達だ。
そして深海さんは彼の仲間だ。
そう考えれば、あの二人は彼寄りに属していることになる。
なおかつ現状だと翔子は完全に彼の味方だし、
翔子と行動を共にする沙織も彼の味方と言えると思う。
その結果。
戦力の勢力図がかなり変わってきているね。
まあ、だからと言って特に問題はないんじゃないかな?って思ってるけどね。
今のところ実害は何もないから良いんじゃないかな。
僕としても彼とは仲間でありたいと思うし、
良きライバルでありたいとも思うから敵対するつもりはないよ。
そう考えると彼を中心として、僕達は集まっているのかもしれないね。
そんな気がするんだ。
「彼女達は彼と翔子の仲間だと思っておけばいいんじゃないかな?」
「ふーん。まあ、どういう関係でもいいが仲間だってんなら歓迎だ。どういう流れでそうなったのかは知らないが、ダチは多い方が面白いからな」
話を聞き終えた真哉は笑顔を浮かべながらさっと立ち上がった。
「長々と時間をとって悪いな。とりあえず聞きたいことはそれだけだ。あとはまあ、自分で適当に調べるさ」
ひとまず満足したようだね。
真哉は出口に向かって歩きだす。
「じゃあな、龍馬!お前も早く帰れよ!」
「ああ、そうするよ」
「またな!」
真哉は会議室を出て行った。
そして再び一人になった会議室で、僕は荷物をまとめて席を立つ。
続きはまた、明日かな?
やらなければいけない仕事を考えながら、僕も会議室をあとにした。




