二人きり
「さて、と。とりあえずここで良いかしらね。」
適当に選んだ感じで栗原さんがたどり着いた場所は診察の順番を待つための待合所の一角だった。
「さすがに診察室の中を独占するわけにはいかないから中を使うわけにはいかないけど。でもまあこの時間は救急以外に診察に訪れる人はいないはずだから、今ならゆっくり話せると思うわよ。」
…ああ、なるほど。
今の所は使う予定がないらしい。
無人の診察室の前で空いている椅子に腰を下ろした栗原さんは、
割と気楽な笑顔を浮かべながら僕にも席に座るようにと視線を泳がせて椅子を見つめている。
「どこでも良いわよ。」
………。
どこでも良いと言ってくれる栗原さんだけど、
それほど選択肢なんてない気がする。
…さすがに隣は座りにくいし。
正面に座る以外の選択肢はないよね?
「それじゃあ…。」
勧められるまま栗原さんの正面の席に腰を下ろしたところで、
医務室の奥で栗原さんと二人きりという状況を改めて認識してしまった。
…うぅぅ。
…本当に誰もいないんだね。
どうしても二人きりという状況には緊張感を感じてしまうんだ。
…僕はどこまで臆病なんだろうか。
シェリルや唯王女と違って気楽な雰囲気を感じさせてくれる栗原さんが相手でも、
やっぱり女性と思うだけで必要以上に苦手意識を感じてしまう自分がいる。
…きっと二人きりっていうのが苦手なんだろうね。
上手く話せない性格だから苦手意識を感じるんだと思う。
…単純に人見知りなのかもしれないけど。
知り合い以外にはなかなか心を開けない僕だから、
どう接すれば良いのかが分からなかった。
…どうすれば良いのかな?
何から話し出せば良いのかと一人で迷いを感じていると。
「まあまあ、もっと気楽にしてみたら?」
栗原さんは笑顔を浮かべながら緊張してばかりの僕を優しく見つめてくれていた。




