本当に来たのね
「あ、あの…。失礼します。」
抑えきれない緊張を感じながら医務室の内部に歩みを進めてみると。
「あらら…。」
僕の捜していた女性がすぐ傍にいた。
「本当に来たのね~。」
…えっ?
本当に来た?
…どういう意味なんだ?
まさか彼女は僕がここにくることを分かっていたのだろうか?
「僕が来るって…知っていたんですか?」
「ん~。知ってたって言うか…。聞いたと言うか…。まあ個人的には来ないんじゃない?って思ってたんだけど…。さすがに兄貴の推測は外れないわね。」
…兄貴?
そう言えば彼女にはお兄さんがいたはずだ。
…あれ?
…でも戦争で亡くなったとかどうとか聞いたことがあるような?
そんな噂話を聞きかじった程度で彼女のことは判断できないかもしれないけれど。
…と言うか。
…僕が知ってることってあまりないんだよね。
目の前の彼女に限らず、
僕には知らないことが沢山ある。
…特に他の学園のことなんて。
知っていることのほうが小数だ。
…って、今はどうでも良いか。
どういう事情かは知らないけど。
彼女は僕が来ることを知っていたらしい。
「もしかして僕を待ってくれていたんですか?」
「ええ、一応ね。」
…やっぱりそうなんだ?
相手が女性ということで控え目に話しかけてしまう小心者の僕だけど。
それでも彼女は微笑みを浮かべながらしっかりと頷いてくれていた。




