男らしく
「まあ、突然の話で私もびっくりしたけどね。だけど唯王女と結婚出来るなんて人生の全ての運を使い果たしてもつかみ取れないくらい夢のような話じゃない。ここはもう迷うことなく婚儀の提案を受け入れるべきよね。」
…え?
「シ、シェリル…っ?」
「羨ましい話よね~。世界中に名を馳せるアルバニア王国のお姫様と結婚出来るのよ?これ以上の玉の輿なんて、世界中のどこを探したって絶対に見つからないわよ。」
「あ、いや…そうじゃなくて…。」
「何よ?まさかあんた唯王女なんかじゃ不服なんて言うつもりじゃないでしょうね?」
「そ、そんなことはないけど…。」
「けど、何よ?って言うか、さっきから気になってたんだけど。京一の態度はおかしいんじゃない?」
…えっ?
「仮にも女の子が自分から告白してくれてるのよ!?それなのに自分で良いのかとか、どうして自分なのかなんて、理由を聞くこと自体が何様なのよって感じるんだけど!!」
「あ、いや…それは…その…っ。」
確かに失礼だとは思うよ。
だけどどうしても気になるし。
何も聞かずに『はい、よろこんで』とは言えないよね?
「一応…」
「一応って何よっ!?そこは男らしく『俺の嫁になれ』の一言で受け入れれば良いじゃない!!」
「い、いや、でもそれはどうかと…。」
「ああ、もうっ!!イライラするわね~!!結局、京一はどうしたいの!?唯王女と結婚したいの!?したくないの!?」
「そっ…それは…。」
「…ったく~。はっきりしないわね!じゃあ質問を変えるけど、唯王女のことはどう思ってるのよ?好きなの?嫌いなの?」
「そ、それはもちろん好きだけど…。」
だけどそれはあくまでも『好き』という気持ちであって僕の『愛』は別問題だ。
「シ…」
「だったら良いじゃないっ!!」
…えっ?
「唯王女と結婚しなさいっ!!」
…い、いや。
「でも…それは…。」
「でも?それは?だから何なのよっ!?まさかあんた唯王女を見捨てるつもりなの!?もしここで婚儀を断れば唯王女がどこかの国に嫁に出されるってことを考えたうえで言ってるんでしょうね!?だとしたら最低よっ!!」
…うっ。
シェリルの勢いがあまりにも凄まじくて何も言えなくなってしまった。
…た、確かに。
ここで婚儀を断れば唯王女は政略結婚によってどこかの国に送られてしまうんだ。
…それはちょっと。
可哀相だと思うし。
もったいない気もする。
…僕を好きだと言ってくれている人を。
僕は見捨てられるだろうか?
…唯王女を選ぶか?
…シェリルを選ぶか?
そのどちらかによって唯王女の人生が大きく変わってしまうんだ。
…そんな選択肢はずるいよ。
はっきり言うなら選択肢は存在していない。
ここで唯王女の想いを断れば唯王女は失意のままで嫁にでなければならないからだ。
…そんな話を聞かされて。
それでも選ぶなんて無理だと思う。
…だけど。
…だけど僕は。
シェリルを愛したいんだ。
シェリルだけを手に入れたいと思う気持ちが真実で、
僕の心は完全に出口の見えない迷宮へとさ迷い込んでしまっていた。




