やるか、やらないか
「何となく思うんだけど。今日この瞬間まで国王就任に関しての情報が来なかったことや、ここでの突然の通達に関して考えれば…わざと京一を迷わせるような状況にしたんじゃないかしら?」
…え?
…わざと僕を迷わせる?
どういう意味か分からない。
…そんなことをして何の意味があるんだろうか?
少し気になって杞憂さんに視線を向けてみると。
「ははっ。やはりシェリル君は見抜いたか。」
杞憂さんはシェリルの考えを肯定していた。
「確かにその通りだ。今ここで話をするまで情報を抑えていたのは澤木君に決断を促すためだ。」
「僕に…?」
「ああ、そうだ。これから国王として国を治める立場になれば、いずれ数々の決断をしなければならない場面に遭遇するだろう。だがその状況において迷いを感じている時間が常にあるとはかぎらない。時には緊急に対処するために即決を求められることもあるだろう。そういう状況においての決断力が国王には必要になるのだからな。」
「僕に迷う時間を与えないために…あえてこの場を用意したということですか?」
「そういうことだ。」
………。
…なるほど。
僕の決断力を試すために。
そして僕の決断を促すために。
わざとこれまで情報を隠していたようだった。
「考える時間などいくらあっても足りることはないだろう。この件に関してはきみの人生を大きく左右する出来事だからな。だからこそ下手に迷い悩むよりも勢いとも言うべき決断で選んでしまったほうがいいと思っている。」
「勢いで…ですか?」
「何度も言うが、これはきみの気持ちで決まることなのだ。誰にも強制できず、誰かの指示で成ることでもない。この件に関しては、あくまでもきみ自身の判断で決めるべきだと考えている。だからこそ考える時間というものは必要ないのだ。きみはただ自らの意思で選び取った道を全力で突き進めば良い。そのあとに関してはそれから考えれば良いことだ。まずはやるか?やらないか?それだけを決めれば良い。」
…やるか、やらないか?
確かにただそれだけの選択肢と考えれば選べるかもしれない。
役職や責任に関してはあとで考えることにして、
今はただどうしたいかだけを考えれば良いのなら。
…迷いは感じない、かな。
恐怖はいつか乗り越えられる。
だけどこの幸運は二度と巡って来ない。
…だったらやってみようかな。
失敗さえも経験として。
新たな人生を歩んでみようと思う。
…これも一つの道だよね。
全く予想していなかった道だけど。
国王として生きていくことで僕は自分に自信を持てる日がくるのかもしれない。
「本当に僕で良いんですか?」
改めて問い掛けたんだけど。
「ああ、もちろんだ。」
杞憂さんはしっかりと頷いてくれていた。




