自らの意思で
「…とまあ、ひとまず陰陽師に関してはこの程度で良いだろう。」
「あ、はい。」
「うむ。」
陰陽師の規律や立場に関する説明を終えた杞憂さんは、
再び話を戻して涼王子に関する話を聞かせてくれるようだった。
「さて、国王暗殺から始まった事件によって涼様は反乱を起こした陰陽師達と対立することになったのだが、その対立の最中に涼様と共に行動していた唯王女は戦場において命を落とされてしまったらしい。」
…え?
「戦場で亡くなられたんですか?」
「涼様を守るために自らの身を犠牲にして亡くなられたようだな。その辺りの詳細に関しては俺も人づてに聞いただけで詳しい事情は分からないのだが、敵部隊の策略にはまって窮地に陥っていた状況で自ら命を断ったそうだ。」
…なっ!?
…自ら!?
「人質として捕らえられた唯様は、涼様の足を引っ張るくらいなら…と、自らの意思で死を覚悟されたそうだ。」
…うわぁ。
「そこまで…。」
そこまで涼王子を想って。
「自ら命を…。」
「ああ、唯王女らしい決断だったと思う。決して納得できる話ではないが、おそらく同じ立場にいたならば、やはり俺も死を選んでいただろう。涼様の足手まといとなるくらいならば死んだほうがましだからな。」
「杞憂さんにもそこまで言わせるなんて…それほどの人だったんですか?」
「後にも先にも涼様以上の人物など見たことはない。俺が知る限り、歴代最高の指導者だっただろう。」
…歴代最高の指導者?
杞憂さんにそこまで言わせるほど優秀な人だったから。
…だから仁国王の憎しみを受けてアルバニア王国を追い出されたのかな?
他に理由なんて考えられない。
「すごい人がいたんですね。」
「ああ、涼様は素晴らしいお方だった。だからこそ俺も米倉宗一郎も涼様を尊敬してやまなかったのだ。」
…え?
「米倉元代表も涼王子とは知り合いだったんですか?」
「ああ。無二の親友と言えただろうな。国王を殺されて唯王女も守れなかった罪を問われた涼様はアルバニア王国を去る時に御神の名を捨てて旅に出られたのだが、その旅の最中に出会ったのが米倉宗一郎だったようだ。」
…と言うことは?
「その時にはもう天城総司という名前を名乗っていたんですか?」
「いや、その名は米倉宗一郎と出会ってから名乗るようになったそうだ。」
…米倉元代表と?
「どうやら米倉宗一郎は涼様の素性を知っていたようだな。だからこそ、名を捨てた涼様を見兼ねて『天城総司』という新たな名前を考えたらしい。」
…えっ?
「…と言うことは、もしかして?」
「ああ、天城総司という名は米倉宗一郎が付けたものだ。」
「どうして、その名を?」
「総てを司るほどの力を持ちながらも、地位も名誉も捨てた男という皮肉を込めた名だそうだ。」
…あ、ああ、なるほど。
…総てを司りながらも全てを捨てた男に贈る名前、か。
決して良い意味ではないと思うけれど。
一国の頂点である王族の名前を捨てて生まれ育った故郷さえも捨てた人物。
そうして天下と王城を失った涼王子に対して皮肉を込めた名前が『天城総司』
それが米倉元代表が考えた偽名で、
後に天城総魔へと受け継がれた『天城』の血筋だったようだ。




