陰陽師の規律
「…少し話が逸れたが、陰陽師とは努力を積み重ねたうえで成ることのできる職業であり、様々な教育を受ける過程において力の扱い方も学んでいるのだ。だからこそ暴走する可能性が低いと自他共に認められている。」
…なるほど。
才能さえあれば誰でも使える魔術とは違って、
陰陽師は術式を学ぶまでに様々な教育を受けるらしい。
その一連の過程において力の使い方に関しても学ぶことで力の悪用を抑えているようだった。
「ちゃんとした教育があるということですね。」
「それが陰陽師の規律なのだ。個人で行動する魔術師とは違い、組織として行動する陰陽師はそれぞれがそれぞれを監視しあって力の悪用を避けるように努めている。」
…なるほど、なるほど。
個人ではなく組織。
そして規律という名の協調性。
それこそが陰陽師の存在を安定させている最大の理由で、
魔術師とは決定的に違う確かな証なのかもしれない。
「ゆえに我等陰陽師は、かの事件と同様の反乱を二度と起こさないために絶対的な規律を守り、決して力を悪用しないことを義務付けられているのだよ。」
…陰陽師の義務、か。
その義務が守られる限りは安全な存在であり、
何も恐れる必要がないと世界中の人達に認められているのかもしれない。
「かつての国王暗殺という事件によって我等陰陽師も魔術師同様に危険な存在だと思われるようになりつつあった。だからこそ我等は以前よりも厳しい戒律を作り上げて、命懸けで守るべき規律を世界に示したのだ。」
陰陽師に対する不信感を完全に払拭するために。
…杞憂さん達は自らを戒めるための規律を作ったのか。
安全性の訴えと正義を示すために。
「規律という絶対的な方針で世界中の信頼を勝ち取ったんですね。」
「ああ、そうだ。だからこそ今の我等が存在し、全ての陰陽師達は以前と変わらない地位を保っていられるのだ。」
陰陽師の反乱という悪夢から生まれた規律。
その厳しい規律が陰陽師への信頼に変わり、
杞憂さん達は世界中から信頼される組織を今も安定して保っているようだった。
「陰陽師側にも複雑な事情があるんですね。」
「…そうだな。色々あったと思う。良いことも、悪いことも…数多く経験してきたからな。」
良いことも悪いことも?
何かを思い出しながら呟く杞憂さんの表情は、
何故かすごく淋しそうに見えてしまった。




