決定的な違い
「そもそもの前提として、きみ達魔術師が自らの力をどう考えて我等陰陽師をどう考えているのかは知らないが、我等陰陽師は魔術師との決定的な違いを認識しているつもりだ。」
「決定的な違い…ですか?」
「そう、違いだ。これはきみ達には理解し難い内容かもしれないが、我等陰陽師とはもって生まれた才能で成れるものではないのだよ。」
…才能?
「きみは考えたことがないか?人を越えた力が欲しいと。誰よりも強く在りたいと。そんなふうに考えたことはないか?」
「…ないとは言えません。はっきりあるとも言い難いですけど。だけど御堂龍馬に勝ちたいとは思っています。」
「ふふっ。やはりきみも同じだな。それこそが我等との違いなのだ。」
…え?
どういう意味なのかさっぱり分からなかった。
「どういうことですか?」
「きみは先天的に自らの才能を受け入れているのだよ。強くなろうとして努力をしたのではなく、本来あった力を向上させようとしている考え方こそが我等との決定的な違いなのだ。」
「えっと、まだ良く分からないんですけど?」
「ならばはっきり言おうか。我等陰陽師とは才能でなるものではない。長い年月を日々修練に費やして血が滲むほどの努力と体が壊れるほどの苦労を積み重ねたうえでようやく初歩的な術式が扱えるようになる『かもしれない』という程度でしかないのだ。」
…え?
「そうなんですか?」
「そう、陰陽師とは根本的に職業の一種にすぎないのだからな。」
…陰陽師が職業?
「陰陽師は魔術師とは違って誰も彼もが陰陽術を使えるわけではない。符術を極めて扱える陰陽師などは5人に1人いれば良いほうだ。ゆえに多くの陰陽師は占星術や風水などの祈祷士として活躍する者が多いのだが、そういう部分においての才能の差は有り得る。だがそれはどういう分野が得意かという違いであって、才能だけで奇跡にも等しい現象を起こせるわけではないのだ。」
…と言うことは?
「陰陽師になれた人の中でも才能のある人だけが術式を使えるということですか?」
「簡単に言えばそうなるな。」
…なるほど。
要するにもって生まれた才能があるかないかに関係なく、
陰陽師としての修練を詰まなければ陰陽術は使えないということだ。
…だけどもしもそうなら。
確かに陰陽師と魔術師は全くの別物だと思う。
…特別な訓練を受けていなくても魔術は使えてしまうからね。
ただ自分の想いに魔力を加えるだけで魔術は成立してしまうからだ。
…だから魔術は幼い子供でも人を殺せるほどの力を扱う事が出来てしまうんだ。
才能で発動する力。
それが魔術になる。
「確かに僕達魔術師は特別な訓練を受けなくても魔術を使えてしまいます。」
「…そのようだな。実際にここにいる唯様も特別な訓練など何も受けていないが、それでも数々の魔術を扱うことが出来るからな。」
…ああ、そうか。
魔術師の存在が禁忌とされる国で何の教育を受けていないはずの唯さんでさえも多くの魔術を扱うことが出来るんだ。
それが才能であって努力の結果ではない最大の証になる。
「確かに魔術師と陰陽師は違いますね。」
「そう、全く異なる能力者なのだ。だからこそ陰陽師は世界に受け入れられ、魔術師は悪魔の子として恐れられているのだ。」
陰陽師は努力の力で魔術師は才能の力。
その決定的な違いを説明した杞憂さんは、
次に陰陽師の規律に関しても聞かせてくれるようだった。




