正確に言えば
「今回の戦争において、アルバニア王国も当初の判断では共和国包囲網の一端として共和国に進軍する手筈だったのだ。アストリア王国が消失するまでは…な。」
…ん?
…アストリア王国が消失するまでは?
杞憂さんの言葉には何か深い理由があるような気がした。
「アストリア王国が消失したことで国家の方針が変わったということですか?」
「いや、正確に言えば『危機感が生まれた』というべきだろうな。」
…危機感?
「それまでは我が国の国王も含めて、周辺各国の王族や貴族達は共和国との争いに関して『圧勝』を信じて疑っていなかった。」
…ああ、それは、まあ。
一国と世界が相手では勝負にならないと思う。
「だが、アストリア王国が消失したことで各国は共和国との戦争に危機感を感じ始めたのだ。」
…ああ、うん。
…それも分からないでもないかな。
共和国と争えば自国が消失する可能性があるという可能性が危機感に変わって、
戦争に躊躇する国が出てきたということだよね。
「共和国と争うことが危険だと気付いたということですか?」
「まあ、一言で言えばそうなるな。だからこそ実際に戦争は一時的に停止した。アストリア王国が敗北したことでセルビナに続いてミッドガルムも停戦の決断を迫られたのだ。」
「…でも。」
「ああ、戦争は再開された。それはもはや共和国との対立等という簡単な話ではなく、共和国の外部で暗躍する強行派の魔術師達がセルビナやミッドガルムの軍に攻撃を仕掛けたからだがな。」
「それなら噂は聞いています。」
竜の牙という名前の部隊が影で暗躍していたと。
「ああ、その噂は事実だ。ただ現在において竜の牙は存在していないらしい。内部争いによる抗争によって部隊は壊滅。僅か数名だけが生き残って失踪しているようだが、その追撃部隊として共和国の軍や他の協力者達が動いているそうだ。」
「他の協力者…ですか?」
「『元』竜の牙の幹部であり、『現』竜の牙を率いる竜崎慶太という名の男が逃走した生存者の追撃を指揮しているようだな。」
「元って…信用できるんですか?」
「…どうだろうな。俺はまだ気を許したわけではないが、米倉宗一郎や御堂龍馬は彼を味方として判断しているらしい。」
「御堂龍馬が…?」
僕の知らない戦場で戦争を勝利に導いた御堂龍馬が味方として判断している人物。
…そう考えれば心配する必要はないのかな?
そもそもどういう人なのか全く知らない僕が余計な口出しをするべきじゃないと思う。
「その…竜の牙に関しては良いんですけど。」
「うむ。話を続けようか。」
僕が関わっていない話を手短に済ませた杞憂さんは話を本題へと戻してくれた。




