お帰りなさい
「ん?」
さりげなく時計に視線を向けてみると、
いつの間にか時計の針は30分を過ぎてたみたい。
そんなに長いあいだ考え事をしてたつもりはないんだけど。
何だかんだで20分以上過ぎてたようね。
「…いつの間に」
小さく呟いていると。
「あら?翔子、待っててくれたの?」
聞きなれた声が背後から聞こえてきたわ。
とても静かな声だけど。
声の穏やかさに反して、
どことなく嬉しそうに聞こえるわね。
時計から視線を逸らして振り返ってみると。
予想通り、沙織が微笑んでくれていたわ。
「やっほ~、沙織」
「ふふっ。お帰りなさい、翔子」
あ…。
うん…。
何気ないありふれた言葉なのに。
胸の奥で…強く、強く、響いたわ。
「ただいま♪沙織!」
沙織に飛びついてみる。
そしてぎゅっと抱きしめる沙織の体は…すごく温かかった。
「もういいの?」
「うん♪もういいの!」
「…そう。」
抱き着いたままでしっかりと頷くと、
沙織も私を抱きしめてくれたわ。
それ以上何も言わずに、ただ静かにそっと私の頭を撫でてくれたのよ。
それから何分くらいが過ぎたのかな?
ただただ沙織と抱きしめ合っていたんだけど。
しばらくしてから沙織が話しかけてくれたのよ。
「おうちで成美も待ってくれているわ。ねえ、翔子。一緒に来てくれるかしら?」
「もちろんよ!」
「ふふっ」
全力で頷く私を見た沙織は、
今にも泣き出してしまいそうなくらいに涙を浮かべながらも優しく微笑んでくれたわ。
「それじゃあ、行きましょう」
「うん!」
歩きだそうとする沙織と並んで、
久し振りの常盤家へ向かうことにしたわ。




