アルバニア王国の王女
…え?
…えーっと。
今、僕の目の前にいる唯さんがアルバニア王国の王女?
その事実を聞いた瞬間に僕の思考能力が停止してしまっていた。
…王女って?
国王の娘ということだよね?
場合によっては世継ぎの一人でもあるはずだ。
…唯さんが王女?
杞憂さんの言葉の意味が今でもまだ理解できない。
…どういうことなんだ?
唯さんが王女と言われればそれ自体は素直に納得できる。
顔や性格は抜群だし、
立ち振る舞いには気品が感じられるからね。
…だけど。
だからこそわからないことがあるんだ。
…どうして?
どうして一国の姫君が僕の目の前にいるのだろうか?
…いや。
…そんなことよりも。
そもそもどうして王女と呼ばれる人が『戦争』に参加していたのだろうか?
もしも本当に唯さんが王女だとすれば、
どうして戦場にいたのかが全く理解出来ない。
「唯さんが…王女?」
「はい、そうです。」
何も分からないまま思わず呟いてしまったんだけど。
唯さんは笑顔を浮かべながらはっきりと答えてくれていた。
…ぅ、うぅっ。
どうやら本当のようだ。
…だとしたら?
唯さんの事情はともかくとして。
…僕は。
僕はアルバニア王国の王女様に対して何も知らずに接していたということになる。
…うああああっ!?
ごく普通に魔術師の一人として扱っていたことを思い出してしまったんだ。
…僕はなんて失礼なことをしていたんだ!?
さらなる恐怖で心が押し潰されそうになってしまう。
…も、もしかして僕は怒られるために呼び出されたのか?
とてもそんなふうには見えないけれど。
それ以外の理由で呼び出された理由が全く思い浮かばなかった。
「あ、あの…っ。その…っ。」
どうしていいのかが分からなくなって、ただただ言葉に迷ってしまう。
だけど唯さんは優しく語りかけてくれたんだ。
「落ち着いてください。慌てなくても大丈夫です。事情を説明しないまま同行させていただいたのは私の個人的な事情ですし、そのせいで困惑させてしまったのは私の責任ですので、澤木様はお気になさらないでください。」
「い、いや…でも…っ。」
「良いんです。私のことを何も知らずに接してくれた澤木様には感謝しています。それに…何も知らないからこそ、私をごく普通の女の子として見てくれたことがすごく嬉しかったんです。」
…え?
唯さんが喜んでくれていた?
その事実は僕には理解出来ないけれど。
唯さんには何か深い事情があるんだと思うことでようやく理解が追いついてきた。
「あの…。その…。唯さんが…あ、いえ…唯王女がアルバニア王国のお姫様だとして…どうして戦争に…?」
どうして戦争に参加していたのかを問い掛けてみようとしたところで。
「その質問には俺から答えよう。」
僕の質問を察してくれた杞憂さんが隠されていた事情を説明してくれるようだった。




