歴代の最長記録
「インフィニティ!!!!」
…くっ!
最強の攻撃魔術とも呼ぶべき無限の連続魔術が発動した直後に、
キラキラと色鮮やかな光を放つカードから数百種類の魔術が一斉に展開されてしまった。
…さっきよりも数が多いっ!!
続々と発動する無限の魔術の嵐が容赦なく僕へと降り注いでくる。
…間に合うかどうかは分からないけれど。
…最後まで凌ぎきってみせるっ!!!
前方と上空から降り注ぐ魔術の全てを打ち落とすなんて神業はさすがに僕でも出来ない。
…それに。
「さっきよりもさらに速い!!」
全力で迎撃を試みてみるけれど。
僕の速度を上回る無数の魔術が容赦なく降り注いでしまう。
…ちっ!
足元に着弾して一気に燃え上がる深紅の炎。
…うわっ!?
とめどなく降り続ける雷。
…し、しまった!?
ホンの一瞬だけ風の音が聞こえたと感じた次の瞬間に、
僕の体の複数の箇所でぱっくりと切り裂かれた深い裂傷が生まれていた。
「迎撃が…間に合わない…っ!!!」
次々と迫る魔術に対して必死に迎撃用の魔術を放っていく。
そして抜刀による衝撃波も利用して可能な限りの魔術を撃ち落とす作戦でギリギリの抵抗を試みるけれど。
発動した魔術の余波によって生まれる爆風や破壊の衝撃波まで防げるわけがなくて、
僕の体力は防戦だけで急激に削り取られてしまっていた。
…くっ。
…シェリルの魔力が尽きるまで耐え切れれば僕の勝ちなのに。
それが分かっていても肝心のシェリルの魔力はまだまだ尽きる様子がなかった。
…魔力の桁が違いすぎる。
シェリルが放つ魔術の一撃ごとの破壊力は決して強くはないと思う。
魔術の威力そのものは学園で学べる程度の基本的な魔術ばかりなので、
一つ一つを見れば決して恐れるほどじゃないはずだ。
…だけど。
基本的な魔術だからこそ全てを極めたシェリルには隙がない。
…あらゆる魔術の相互干渉や相乗効果までも把握したうえでの連続攻撃なんだね。
一切の無駄がなく。
一瞬の隙もない。
そんな完璧な魔術の構成力がシェリルの才能だと思う。
…ただ早いだけじゃなくて全てが完璧に計算しつくされているのか。
そうとしか思えないほどシェリルの魔術は完璧だった。
…ダメだっ。
…もう防ぎきれない!!
魔術の相殺は追いつかない。
魔術の迎撃さえも間に合わない。
僕の体力は着実に奪われていて、
居合斬りも出来なくなってきている。
…だけどっ!
そんなボロボロの状況でも。
…まだ諦めるわけにはいかないんだっ!
諦めればそこで終わってしまう。
試合の勝敗も。
シェリルへの想いも。
全てが終わってしまうんだ。
「僕はまだ負けないっ!!全ての魔術を叩き落とすっ!!!」
限界ギリギリの状況の中でも直撃しそうな魔術だけを直感で認識しながら迎撃を始める。
だけどシェリルに動揺はないようだった。
「反応が遅いって言ったのがまだ分からないの?」
………。
シェリルは無数の魔術を次々と撃ち放ちながら僕の側面へと回り込んだでくる。
「防御に集中するのも良いけれど。私の存在を忘れてないでしょうね?」
…くっ。
颯爽とした素早い動きで僕の側面に回り込んだシェリルは続けざまに新たな魔術を展開してきた。
「まだまだカードはあるのよ!」
再び魔力を変換してカードを生み出すシェリルは僕の側面からも容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
「数の力を思い知りなさい!」
どこまでも冷静な態度で忠告したシェリルは、
再びカードを頭上に放つことで無数の魔術を連続で発動していく。
「500を超える魔術の嵐に対してどこまで耐え切れるかしらね。」
…500!?
大小様々な連続魔術。
その破壊力に絶大な自信を持つシェリルが静かに僕との距離を詰めてくる。
「とりあえず2分が経過。現時点で歴代の最長記録かしら?」
…ど、どうなのかな?
実際にどうかは知らないけれど。
魔術の発動から2分が過ぎたことで最長記録を更新したらしい。
だけど。
…そんな悠長な状況じゃないんだ!
記録なんてどうでもいい。
今はシェリルの攻撃を凌ぐ以外に選択肢がないままだ。
「疾風…迅雷っ!!!!」
残された体力で必死の迎撃を行うけれど。
「エクスカリバー!!!!」
シェリルは容赦なく僕の生み出す衝撃波を掻き消してきた。
…ま、まずいっ!?
「ぐっ!?うあああああっ!!」
シェリルの妨害によって複数の魔術の直撃を受けた僕の体が宙を舞う。
そして吹き飛んだ僕の体に続々と魔術が襲い掛かってくる。
「がっ、あああああああああああああああああああっっっっっっっっ!!!!!!!!!!」
全身に襲い掛かる苦痛。
五感の全てが崩壊しそうなほどの様々な破壊の力が僕の体を飲み込んでいった。
「ぐっ!!!あああああああああっ!!!!!!」
気を抜いた瞬間に意識が飛んでしまいそうな激痛が止まることなく降り注ぐ。
…まずいっ!!!
このままでは確実に敗北する。
数の力という圧倒的な暴力の前に僕の力が及ばなかったからだ。
…やっと、ここまできたのに!
…ようやくシェリルに手が届くところまできたはずなのにっ!
ここで負ければ僕の理想は失われるんだ。
…い、嫌だっ!!
…シェリルを失いたくないっ!!!
ここでシェリルに見放されたら僕の未来はもうどこにも存在しない。
…それだけは嫌だっ!!!!
大会の優勝を逃すことよりも。
御堂龍馬に負けることよりも。
シェリルに見放されることだけは絶対に嫌だった。
…まだだっ!!!!
僕はまだ何もしてない。
僕はまだ戦ってすらいないんだ。
…シェリルを手に入れるんだっ!!
地位や名声なんてもうどうでもいい。
そしてぶざまでも格好悪くてもいい。
…だけど。
シェリルに負けることだけは絶対に認められない。
…僕はシェリルに認めてもらえる男になりたいんだっ!!
だからこそ。
…ここで負けるくらいなら、はいつくばってでもシェリルに勝ってみせるっ!!!
「シールドっ!!!!!!」
敗北寸前の状況へ追い込まれてしまった僕はなりふりかまわずに苦手な防御結界を生み出して、
シェリルが生み出す無限の魔術を一時的に遮断することに成功した。




