候補は一人
「シェリル、僕はきみに勝つよ。」
「………。易々と勝たせてあげるほど私は甘くないわよ?」
シェリルを失望させないために堂々とした態度をみせたことで、
シェリルも強気な態度で勝利を宣言してきた。
「勝つのは私よ。京一には悪いけどね。私にも負けられない事情があるのよ。」
…ん?
…負けられない事情?
シェリルの事情が何なのかなんて僕には分からない。
だけど。
ホンの一瞬だけシェリルの視線が別の場所に向いたような気がした。
…どこを見ていたんだ?
少し気になったことでシェリルが見ていた方向に視線を向けてみると、
各町の学園長や米倉宗一郎さんのような上層部の人達だけが立ち入ることのできる特別な観客席があることに気づいた。
…特別観客席?
…あの場所に誰かいるのか?
特別観客席に入れてシェリルと知り合いの人物。
その候補は一人しか思い浮かばない。
…もしかして?
僕の知らない人物だとすると推測さえ出来ないけれど。
もしも僕が知ってる人物があの場所にいるとするなら。
…それは。
一人しか考えられなかった。
…絹川紗枝さんかな?
クアラ国の王女で、
シェリルが命をかけて守り抜いた女性。
彼女が観客としてあの場所にいるとすれば、
ぶざまな姿は見せられないという意味も分かる。
…たぶん観戦に来てる絹川王女に自分の実力を示すために。
シェリルも身を引けない状況なんじゃないかな?
「もしかして絹川王女が来てるのかい?」
「ええ、そうよ。」
一応、確認のために問い掛けてみると予想通りの答えが返ってきた。
「紗枝が見に来ているのに格好悪い姿は見せられないでしょ。」
…そうだね。
…そういうことならお互いに退けないよね。
僕はシェリルのために。
シェリルは絹川王女のために。
それぞれの想いを抱えながら勝利を目指さなければならないということになる。
「お互いに全力で戦おう。」
「当然よ。」
互いに健闘を願う僕に、
シェリルは戦闘の意思を見せていた。




