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THE WORLD  作者: SEASONS
5月13日
4071/4820

愛を込めて

ここから澤木京一編です。


ある意味、一番主人公らしい人物だと思います。

「「「「「がんばれ~~っ!!!」」」」」


「「「「「応援してるぞーー!!!」」」」」


「「「「「グランバニアの底力を見せろーっ!!!」」」」」


「「「「「ランベリアも負けるな~!!」」」」」



騒がしいと思えるほどの声援が飽きることもなく続く会場。


沢山の人々が僕達を見つめて試合の行く末を見守ってくれている。



…こういうのは初めての経験かな。



前回まで頂上決定戦に参加していたはずの僕達が、

今回は最下位決定戦に駒を進めているからだ。



そんな真逆の目的で試合が始まる状況で試合場に立っている。



…それも。



最も戦いたい相手であり、

最も傷付けたくない相手であるシェリルと向き合っているんだ。



…シェリル。



僕達と同様に1回戦を敗退して最下位決定戦へと駒を進めてしまったランベリア多国籍学園を率いるシェリルが目の前にいる。



「お互いにこういう舞台は初めてだね。」


「…ここがどこで、どんな状況かなんて、そんなことはどうでもいいことよ。」



………。



試合開始直前の状況で少し緊張を感じながらもシェリルに話し掛けてみると、

シェリルは普段と変わることのない冷静な口調で質問に答えてくれていた。



「大会の順位に興味がないとまでは言わないけれど、学園の順位だけが私達の価値じゃないわ。そのことは京一だって分かっているでしょ?」



…ああ、もちろんだ。


…ちゃんと分かっているよ。



シェリルに念を押されなくても十分に理解してるつもりだ。



例え御堂龍馬には勝てなくても、

僕が歩んできた人生そのものを全て否定することは出来ないからね。



「確かに順位は重要じゃないと思う。だけど優勝を逃したことは素直に悔しいと思うんだよ。」


「…それは強者の台詞ね。決勝戦への常連校だからこそ言える言葉よ。」



…そうかな?



言われてみればそうなのかもしれない。



…と言うよりも。



シェリルの指摘は全てが正しいような気がしてしまう。



…気持ちで負けてるのかな?



シェリルが好きだと思う気持ちがシェリルへの戦意を薄めているのかもしれない。



…やりにくいと感じる気持ちはあるよね。



シェリルは僕との試合をどう思っているんだろうか?



「ねえ、シェリル。」


「何?」


「シェリルは僕と戦うことをどう考えているんだい?」


「…別に何も思わないわ。誰と戦うかなんて一々気にするつもりがないもの。」



…ははっ。



「相変わらずシェリルは冷静だね。」


「それが私が私であるということよ。」



…確かに。



シェリルにはいつでもそうであってほしいと思う。



…強くて気高くて。


…だけどただ美しいだけじゃなくて。


…意志の強さと他人への優しさを兼ね備えているシェリルだからこそ、僕はシェリルに惹かれたんだ。



決して見た目だけじゃない。


シェリルには見た目以上にとても輝かしい内面がある。



…だから。



だからこそシェリルには負けたくないと思うんだ。



僕は決して強くはないけれど。


だけどシェリルにぶざまな姿は見せられない。



御堂龍馬のような覇者としての実力はないけれど。


それでもシェリルに認めてもらえる特別な存在でありたいんだ。



「僕はね。正直に言ってやりにくいと思うよ。」


「それは私とは戦いたくないってこと?」


「ああ、そうだね。シェリルを傷付けたくないと思うんだ。」


「…随分と優しいお言葉ね。だけど…。」



…ああ、分かってるよ。



「きみを呆れさせるようなことをするつもりはない。こうして対峙したからには全力で戦うつもりだよ。」



シェリルを傷付けたくないけれど。


だからと言ってシェリルを失望させるわけにはいかないんだ。



「手を抜いて負けるようなことはしない。それはきみにとって屈辱に等しい結果だろうからね。」


「…分かってるならいいのよ。」



…ああ、分かってるよ。



シェリルの性格も。


シェリルの願いも。


シェリルの実力も。


シェリルの誇りも。


シェリルの優しさも。



その何もかもを知っているからこそ、

僕はこうしてここにいるんだ。



「僕はね。シェリルにだけは負けたくないんだ。シェリルを失望させるような男にはなりたくないんだ。」


「…はぁ?何よそれ?」


「ははっ。まあ個人的な事情だよ。」



だけどね。



「ランベリア多国籍学園が1回戦で敗退したと聞いた時に、僕はきみと戦いたいと思ったんだ。自分でも不思議な感情なんだけどね。だけどきみを傷付けたくないと思っていながらも、きみと戦いたいと思ってしまったんだよ。」


「ふ~ん。それでわざわざ挑戦状を仕向けてきたのね。」



…ああ、そうだよ。



「シェリルと戦いたくて、あえて第1試合から僕が出ると伝えたんだ。」


「そうまでして私と戦いたかったの?」


「ああ、きみとは僕が戦いたかった。きみを傷付けるのは気が引けるけれど。だけど他の誰かにきみが傷付けられるのは見たくなかったんだ。」


「ふん。やるからには自分の手でとでも言うつもり?」


「まあ、そうなるね。」


「強気なのか弱気なのか、相変わらず京一は難しい性格ね。」


「ははっ、よく言われるよ。」


「…言われてるのね。」



…ああ、言われてるよ。



「康平にも、筑紫さんにも言われるし、学園の特風でも扱いにくい存在だと思われてるのは自覚してるよ。」


「………。自覚してるのなら直しなさいよ。」



…ははっ、そうだね。



だけど。



「僕は僕だよ。他の誰かに望まれるまま性格を変えるなんて出来ないし、したくもないんだ。」


「ふふっ。京一らしい考え方ね。」


「きみもそうだろ?」


「ええ、そうよ。私は私であって、他の誰かが決めた評価や価値観なんて興味がないわ。」



…だろうね。


…そう言えるきみに惹かれたんだ。



誰かにこびたり甘えたりせずに、

自分で自分の人生を決められるシェリルの意思の強さに惹かれたんだからね。



「2週間経ってもシェリルは何も変わってないね。」


「…私を馬鹿にするつもり?」


「違うよ。そうじゃなくて…シェリルにはそのままでいてほしいと思うんだ。」


「言われなくても私は私よ。」


「ははっ、そうだね。それで良いと思うよ。」



シェリルは何も変わらない。


今でもまだ僕の気持ちには気づいてくれていないみたいだけど。


それでも僕は構わないんだ。



…今はまだその時じゃないからね。



今はまだこの気持ちをシェリルに伝えることは出来ない。



…全てはこの大会が終わったあとだ。



今はまだ『約束』があるからシェリルにこの気持ちを伝えることはできない。



…同じ立場で。


…同じ気持ちで。



お互いに全ての心をさらけ出せる状況が整うまで。



…僕はまだ何も言わないよ。


…それが『あの人』との約束だからね。



戦争が終わって共和国へと戻る道中で全てを話してくれた『あの人』との約束を果たすために。


今はまだシェリルへの気持ちを隠しておかなければいけないんだ。



「シェリルは…これからもずっとシェリルのままで良いんだよ。」



手が届かないと思えるほどの高嶺の花だからこそ、

僕の心が狂おしいほどにざわめく。



そして。



…本気できみが欲しいと願うんだ。



正真正銘、唯一の心で。



…シェリルが欲しいと思うんだよ。



そのために僕はシェリルの心を手に入れるための完璧な道筋を進まなければいけない。



…だから手加減はしないよ。



シェリルを倒すのは僕であって他の誰でもない。


そうしてシェリルを失望させずに信頼を勝ち取ることこそが僕の最大の目標になる。



…僕は出遅れてしまった。


…だからこそここで僕は僕の力を示すんだ。



シェリルの心を勝ち取るために。


そしてシェリルの愛をこの手で勝ち取るために。



「シェリル、僕はきみに勝つよ。」



僕は僕の愛を込めて、

シェリルに勝利を宣言した。


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