さらなる失意
…これは、どうなんだ?
里沙と雪が仲良くなってしまった。
それ自体に問題はないし、
自由にしてもらっても構わないとは思うものの。
…雪がまた悪影響を受けなければ良いんだけどな。
姉貴に続いて里沙からも影響を受けてしまったら、
雪の優しい性格のどこかが変わってしまうかもしれないと不安になってしまう。
…雪には今のままでいてほしいんだが。
もしも里沙のせいで性格が歪んでしまったら?
俺の安らぎは全滅してしまうかもしれない。
こうなるともう雪がどこまで今の優しさを維持できるのか?
そんなささやかな幸せまでも失われてしまいそうな絶望的な恐怖が俺の心に襲い掛かってくる。
…だが。
今はそれよりもさらなる失意が俺を襲ってきた。
「淳弥…。」
…御堂。
背後にいた御堂は少し困っているかのような複雑な表情を浮かべている。
「グランバニア魔導学園の試合順を調べたのは本当なのかい?」
…あ、ああ。
「すまない…。本当だ。」
ここで嘘はつけない。
今ここで御堂の信頼を失えば御堂が大会を棄権する可能性があるからだ。
「相手が相手だからな。少しでも勝率をあげるために…。」
「…淳弥。」
………。
俺の言い訳を遮った御堂は深い憂いを帯びた瞳で俺をまっすぐに見つめていた。
「きみの努力を否定するつもりはないよ。きみにはきみの立場があるだろうし。僕の知らない事情があるのかもしれない。だけど…だけどね。もしもどうにもならない事情があって、きみが苦労しなければいけない状況にいるのなら。そしてもしも僕がきみに出来ることがあるのなら。もしもそうなら…ちゃんと僕に理由を聞かせてくれないかな?」
………。
御堂は俺を責めなかった。
注意するわけでもなく。
ただ俺を想って話を聞かせてほしいと言ってくれたんだ。
…御堂らしいな。
きっと御堂は俺に不満をぶつける前に、
自分のせいで俺が苦労していると考えているんだと思う。
…どこまでも。
…どこまでも。
御堂は自分よりも仲間のことばかり考えているのが分かる瞬間だった。
…だからこそ、言えねえんだ。
天城総魔に関する情報が極秘という以前に、
これ以上御堂の心を追い込むわけにはいかなかった。
…力と心は比例しないんだよな。
御堂がどれほど強くなっても繊細な心は変わらない。
…だからこそ、これ以上御堂に重荷を背負わせるつもりはねえ。
御堂が迎えるべき輝かしい未来を守るために。
罪を背負う覚悟でいる。
…そのために俺は九鬼穂乃華も殺したんだからな。
共和国を守るために。
そして御堂を守るために。
罪を犯し続ける道を選んだんだ。
…闇の世界を生きるのは俺だけで良い。
御堂まで闇の世界に巻き込むわけにはいかない。
そしてそうなることを天城総魔も望んでいないはずだ。
…御堂は何も知らなくていい。
そう思うからこそ、
俺に言えることは一つしかなかった。
「別に深い事情なんてない。俺はただ優勝を目指して情報を集めただけだ。それも戦略だと思うからな。」
試合が始まる前からすでに戦いは始まっている。
その考えがあるからこそ。
「諜報が俺の役目だと思っている。ただそれだけだ。」
俺は御堂に嘘をついた。




