心臓を一突き
「矢野さんっ!!」
試合場に倒れている百花に急いで駆け付けた雪は絶望的な表情を浮かべてから菊地英樹を睨みつけていた。
「どうして…。どうしてここまでする必要があるんですか!?」
「…ご、ごめん。全力を出さないと勝てないと思ったんだ。」
雪の怒りを込めた問い掛けに対して菊地英樹は素直に謝罪していた。
「…だと、しても…っ!」
雪は納得がいかないという表情で百花に視線を戻してから、
胸に突き刺さっている剣を力を込めて引き抜いた。
「心臓を一突きなんて…。これで殺意がなかったなんて思えますか?」
「…あ、ああ。そうだね…。だけど…そうするしか、なかったんだ…。」
…は?
「え?」
…何か理由があるのか?
「それは…どういう…?」
「まさか…あの状況で反撃できるなんて、思って、いなかったんだ、よ…。」
雪が意味を問い返す前に掠れるような声で答えた菊地英樹が両手で腹部を抑えながら地面に膝を着く。
「やらなければやられていた…。そういう…ことなんだよ…。ぐっ…!がはっ!!」
…なっ!?
菊地英樹は限界を訴えるかのような苦しみを表情に示したあとで口から血を吐きながら試合場に倒れ込んでしまった。
「最後の瞬間に…相打ちを狙った彼女の攻撃は…僕に…」
…直撃していたのか?
だが真実を言葉にする前に、
菊地英樹は意識を失って眠りについてしまったようだった。
「引き分けか…?」
俺が試合場に着いた時には菊地英樹も倒れていた。
試合結果としては百花の敗北でグランバニア魔導学園の勝利に間違いないが、
百花は単なる敗北ではなく菊地英樹の撃破には成功していたらしい。
…死んでも諦めないってやつか?
百花の信念がこの試合に表れていた。
「大した女だな。」
口先だけではない確かな実力があることを認めるしかない。
「どうだ雪?百花は助けられるか?」
「う、うん。大丈夫だよ。色々と協力もあるから…。」
…ああ、協力か。
今もまだグランパレスにいるのかどうかは知らないが、
天城総魔の協力があるのなら百花を心配する必要はないだろう。
「百花を助けてやってくれ。」
「うん。」
俺の願いを素直に聞き入れてくれた雪は、
意識を失って瀕死の重傷の百花を必死に治療してくれていた。




