学者だよな?
「試合…始めっ!!!」
大声で叫ぶ係員の合図によって、
ついに百花と菊地英樹の試合が始まった。
「全力で叩き伏せる!!」
「…里沙の進むべき道のために。」
試合開始と同時に勢いよく駆け出す菊地英樹だが、
百花は俺には到底理解できない不可解な言葉を呟いた直後に両手にルーンを生み出していた。
「プリンセスガード。」
何をどう考えたうえでその名前にしたのかも不明だが。
…何故か百花は剣なんだよな。
どこまでも冷静に振る舞い、
軽やかに剣を構える百花の仕種はまるで本物の騎士のように優雅な雰囲気を醸し出している。
…って言うか、そもそも百花って学者だよな?
決して武闘派ではないはずだ。
どちらかと言えば研究室で魔導書を読みあさっているような地味な優等生だったはず。
それなのにどうして剣を扱うようになったのだろうか?
…里沙に感化されたのか?
地味な学者だった百花が一流の騎士のような振る舞いをとっているのが俺には不思議に思える。
…まあ、見た目と実力は比例しないけどな。
どれほど優雅に見えても剣士としての実力には関係ない。
…剣と剣の戦いはどっちが勝つんだ?
騎士剣を構える百花が相手の出方を窺う最中に、
菊地英樹は闇の力を結集したフォースイーターという名の魔剣を構えながら百花の前方へと踏み込んでいく。
「まずは一撃っ!!!」
「…円…。」
気合いを込めた横薙ぎの斬撃を放つ菊地英樹に対して、
百花は無理に斬撃を受け止めようとはせずに騎士剣で防いだ刃の軌道を側面から頭上へと逸らして菊地英樹の攻撃を受け流してみせた。
…すげぇな。
腕力で劣る百花は無理に防ごうとはせずに軌道を変えて受け流すことで無傷のまま初撃を回避している。
…攻撃を弾くってのは良く見るが、受け流すってのは滅多に見れないからな。
相手の動きを読み切っていなければそうそう上手くは流せないはずだ。
…マジで騎士にでもなるつもりか?
百花の考えは不明だが、
言動がただの学者ではなくなってきているのは間違いない。
…これは思った以上に期待できるかもしれないな。
今まで実力的な不安を感じていた百花だったが、
今の動きだけでも十分に戦力として期待できる気がしてきた。
…面白れぇ。
もしもここで百花が勝って次の3試合目でも里沙が勝てば、
御堂と澤木京一の試合が始まる前にジェノス魔導学園の勝利が決まることになる。
…このまま攻めるか?
回避力は向上している百花だが、
攻撃力はどうなのだろうか?
その辺りの成長にも期待しながら試合の展開を見つめる俺の視線の先で。
「無駄な動きが多いと隙が生まれるわよ?」
冷静に菊地英樹の攻撃を回避した百花は攻撃を受け流した動作から斬撃へと軌道を変えて、
頭上から足元に狙いを定めて一気に刃を振り抜いていた。
「ぐっ!?うわぁっ!!!」
右肩から左側面の腹部にかけて一直線に切り裂かれた菊地英樹が悲鳴をあげながら慌てて後退していく。
「…くっ。思った以上に早い…っ!!」
物理的な速度ではなく、
攻守の切り替えが上手い百花の攻撃を受けたことで菊地英樹は百花の実力を察したようだ。
「やっぱりジェノス魔導学園ということかな。初参加の生徒でもここまで戦えるとは、ね。」
…ああ、そうだな。
…何故か百花も武闘派になってしまったからな。
どうしてそうなってしまったのかも不明だが。
大会初心者でも決して油断できないと判断した菊地英樹は、
簡易的な回復魔術で腹部の切り傷を治療しながら本格的に魔術を展開しようとしていた。




