誰かさん
「それではただいまより第1回戦第2試合を行いたいと思います!ジェノス魔導学園からは矢野百花選手。そしてグランバニア魔導学園からは菊地英樹選手。両選手共にご準備が整い次第、試合場までおこしください!」
里沙への説明が終わり。
俺と雪も試合場を離れたことで、
次の試合に参加する百花が試合場に呼び出された。
「ふ~ん。2戦目は私なのね。」
俺とすれ違いながら試合場に向かう百花の表情にはあまり緊張が感じられない。
「随分と余裕な感じだな。」
「余裕というわけでもないけど、ここまで来た以上はあれこれ悩んでも仕方がないでしょう?長野君がどういうつもりで試合順を決めたのかは知らないけれど、順番がきたからには全力で戦うまでよ。」
…そうか。
…まあ、そういうものかもな。
「それだけ冷静でいられるなら心配はなさそうだな。とりあえずは菊地英樹が相手だが、よほど大きな失敗でもしない限りは百花なら勝てるだろ。」
「…どうかしらね?向こうは長野君が思っていた以上に成長してるようだし。余裕をかまして油断するような『誰かさん』みたいなマネをするつもりはないわ。」
………。
意外と…と言うか。
やっぱり百花も結構な辛口発言をしてくれる。
「…ま、まあ、頑張れ。」
俺が何を言っても受け入れない気がするからな。
さっさと見送ることにした。
「とりあえず応援はする。必要ないかもしれないけどな。」
離れる前にそれだけを伝えてから歩き出すと。
「ありがとう。気持ちだけは受け取っておくわ。」
予想外に感謝の言葉を残してから百花は試合場へ向かって行った。
…なんだろうな。
「里沙に比べると遥かに素直な奴だよな。」
「うん。そうだね。」
何気なく呟いた言葉を聞いた雪が隣で苦笑しているが、
問題児の里沙は百花の応援に集中していて俺のことなんて見てもいないようだった。
…まあ、いいか。
今の発言を聞かれてしまったら確実に一騒動が巻き起こるからな。
「とりあえず戻るぞ。」
雪を連れながら足早に待機所へ戻ると御堂が笑顔で出迎えてくれた。
「おかえり、淳弥。一勝おめでとう。」
「ああ、まあ、ギリギリだったけどな。」
「それでも勝利に変わりはないよ。それに相手が盛長君なら淳弥でないと勝てなかったと思うしね。」
…まあ、それはそうだろうけどな。
「御堂ならもっと楽に勝てただろ?」
「うーん。どうかな?僕でも苦戦していたかもしれないよ。」
「そうは思えないけどな。」
「そうかな?僕としては瞬時に相手の弱点を見破れる淳弥のほうがすごいと思うんだけどね。」
…それが俺の特技だからな。
「対戦相手の能力を分析できないようだと、それこそ俺の出番がなくなって里沙にぼろくそに扱われるだろ?」
「あはははっ。まあ、そうかもしれないね。」
…そこは否定してくれないんだな。
御堂としても簡単に想像出来きてしまう出来事のようだった。
「だけど良く気付いたね。魔術耐性の分析まで出来るなんてすごいと思うよ。」
「まあ、その辺りに関しては色々と気になることがあったからな。」
「気になること?」
「ああ。」
俺の雷撃はほとんど効果を発揮していなかったが、
それでも完全な無効とは違っていたからだ。
「僅かだが盛長康平に影響を与えることが出来ていたからな。その事実から推測すれば、雷撃の影響の全てを防げるわけかないってのはすぐに理解できた。」
盛長康平の手が雷撃によって負傷した事実を考えれば、
雷撃を100%完全に遮断出来るわけではないというのはすぐに分かる。
「雷そのものを防ぐことは出来ても、雷が生み出す熱や衝撃までは無効化することが出来ていなかったからな。」
だからこそ雷に対する魔術耐性があるのではないかという仮説がすぐに出来上がった。
「避雷針という呼び方が正しいかどうかは別としても、その性能に限りなく近い耐性があると考えれば必然的に対処法は思い付く。」
それが地面との接触を断つことであり、
宙に浮いた盛長康平に雷撃を叩き込むことになる。
「相手の弱点をついて叩き潰すのが俺のやり方だからな。」
里沙にはセコいと言われるが、
命懸けの真剣勝負の世界に正攻法なんて存在しない。
「御堂はどう思う?」
「僕かい?僕なら…。」
御堂がどう思うかを考え始めた頃に。
「みなさまお待たせ致しました!ただいまから第2試合を始めさせていただきます!!!」
すでに半壊している試合場で百花と菊地英樹が対峙したことで次の試合が開始されるようだった。
「ジェノス魔導学園が優勝への道を一歩進んだ状況でグランバニア魔導学園はどこまで食らい付くことが出来るのかっ!?まだまだ気になる注目の一戦が再び始まります!!」
…少しばかり大げさだが。
試合を盛り上げようとして叫ぶ係員の言葉は正しいと思う。
…確かに注目の一戦だな。
百花の実力もそうだが、
グランバニアの生徒の中で最下位とも言える菊地英樹の実力がどの程度なのかも十分過ぎるほど気になるからだ。
…どっちが勝つか?
ほぼ互角と思われる二人の勝負の行方は俺でさえ予測しきれない。
「この試合の結果で百花の実力が明らかになるだろうな。」
百花がどこまで戦えるのか?
その一点に疑問が残る中で、
里沙だけは一切の迷いなく百花の勝利を信じているようだった。
「百花なら絶対に勝って帰ってくるに決まってるじゃない!」
…だと良いんだけどな。
疑うつもりはないが信じることも出来ない。
そんな複雑な心境の中で。
「それでは試合を始めます!!」
係員が試合開始を宣言していた。




