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THE WORLD  作者: SEASONS
5月13日
4014/4820

少しばかり

…盛長康平か。



「こうして会うのは初めてだな。」


「………。」



何気なく呟いてみただけなんだが、

どうやら俺の言葉が聞こえていたようだな。


試合場に上がってきた盛長康平は落ち着いた表情の内側に激しい闘志を秘めながら、

堂々とした態度で立ちはだかってきた。



「どうやら俺の名前は知っているようだな。」


「ああ、それなりに有名だからな。」


「それなり…か、言ってくれるな。」


「ああ、いや、別に他意はないが、グランバニア魔導学園の第2位として名前と顔くらいは知ってるってだけだ。」


「…なるほどな。だが俺はお前を知らないんでな。試合が始まる前に名前くらいは聞かせてもらおうか。」



…俺の名前か?



「教えても構わないが、聞いたところで何も知らないだろ?俺が誰で、どんな能力を持っているのか。イーファやカーウェンで活躍していたお前達は何も知らないはずだ。」


「ほう…。どうやら俺達のことをそれなりに把握してるようだな。」


「ああ、俺はお前達を知ってる。お前達が俺を知らなくてもな。」


「…ふん。随分と回りくどい話し方をする男だな。」


「そうか?」


「あまり喋りすぎる男は好きではないんでな。」


「…それは悪かったな。」



確かに少しばかり喋りすぎたかもしれない。



…どうも機嫌が悪いのかもな。



自分でも気付かない間にイライラしていたようだ。



…最近は里沙のわがままに振り回されっぱなしだったからな。



この辺りで一度暴れておかないと胃に穴があきそうなくらい精神的に疲れ果てている。



…日頃の不満を解消するために一暴れしておくか?



本来ならあまり目立つ行動は避けたいところだが、

ここまで来た以上は力を隠していても仕方がないだろう。



…里沙に俺の実力を見せ付けるためにも、この一戦だけは全力でいくか。



なにより姉貴からの厳命もあるからな。


中途半端な試合は出来ない。



…グランバニアの2位なら丁度良い相手だろ。



俺の実力示す意味でも盛長康平が相手なら全力で戦う意味はある。



「改めて自己紹介だけしておくぜ。俺の名前は長野淳弥ながのあつや。現ジェノス魔導学園で第2位の男だ。」



実際の順位は検定を受けていないから2位とは言い切れないが、

実力的には嘘ではないはずだ。



「お互いに第2位の名にかけて、どっちの学園が上なのかはっきりと決着を付けようぜ。」


「ふんっ。大会初参加とは思えない強気な発言だな。だがこの大会はお前が思うほど簡単なものではないことを俺がしっかりと叩き込んでやろう。」



…ははっ、言うじゃねえか。



「だったら見せてもらおうか、グランバニア魔導学園の実力を。」


「ああ、見せてやろう。俺達がどれほどの死線を乗り越えてここまで来たのかを!そして示して見せよう!澤木京一が率いるグランバニア魔導学園の底力をだっ!!」



大きな声で叫ぶ気迫に満ちた宣言の直後に、

盛長康平の体から大気を揺るがすほどの膨大な魔力が溢れ出した。



…は、ははっ。


…とんでもないバケモノだな。



魔力の桁が優に俺を越えている。



…何なんだこの覇気は!?



強暴としか言いようのないでたらめな気迫が盛長康平の魔力には込められていた。



…冗談だろっ!?


…フェイ・ウォルカ級じゃねえかっ!?



単なる雑魚だと思っていたのだが、

魔力の質だけを見れば澤木京一よりも厄介な相手かもしれない。



…一撃の破壊力はフェイを越えるんじゃねえか!?



ヒシヒシと感じ取れる魔力の波動は強暴性に満ちていて、

傍にいるだけで体が震えるほどの威圧感を感じてしまうからだ。



…これが第2位の力か。



繰り上げで上位に上がってきた俺とは格が違う。


目の前にいる盛長康平からは本物の戦士の気迫が感じ取れる。



…実力で勝ち得た第2位の力ってことか。



気合いという意味では盛長康平に負けてしまうだろうな。



…これは油断できねえぞ。



俺の実力を示すための『ほどよい相手』なんて悠長なことを言っていられるような状況ではなかった。



…ったく。


…人選を間違えたかもな。



盛長康平はどう見ても雑魚じゃない。


むしろ強敵だと認識しなければならないほど圧倒的な気迫に満ちている。



…ちっ!


…こういう奴にこそ里沙をぶつけてやれば良かったか。



一敗は確定するだろうが、

里沙がボコボコになる姿が確実に見れるうえに他の相手を俺が潰せば一勝一敗に持ち込めていたはずだ。



…ここで俺が負けたら、あとが厳しいな。



御堂の一勝は確かでも、

鈴置は不確定で里沙と百花は期待できないからだ。



…これはもう意地でも負けられねえぞ。



そもそもここで盛長康平に負ければ俺は間違いなく姉貴に殺されるだろう。



…まだ死にたくねえ。



こんなところでぶざまな最期を迎えるのは絶対に避けたい。



…こっちも命懸けなんだ。


…気迫で負けてられねえぜっ!



盛長康平程度に負ければ俺に迎える明日はない。



「大した魔力だが、その程度で俺に勝てると思うなよ。」



気持ちを切り替えて意識と思考を戦闘状態に移行した俺は、

今まで押さえ込んでいた魔力を一気に解放することにした。



「闇の世界で生きるための力を見せてやるぜ。」


「………。」



単なる試合という甘えた考えを捨てて殺意を秘める俺の魔力を実感した盛長康平は、

落ち着いた表情から一変して命のやり取りを前提とした真剣な表情へと切り替わっていく。



「先に言っておくが、俺は決して油断しない。例え相手が何者であろうとも、京一の行く手を阻む敵は俺が全て排除するまでだ。」



…は、ははっ。


…やっぱりバケモンだな。



あらゆる敵を薙ぎ倒して一歩ずつ確実に前へと進んでいく戦士としての闘志を全身にみなぎらせる盛長康平は、

少しずつ後退してから試合の開始位置に立った。



「京一が進むべき道は俺がこの手で切り開く!!」



ただ純粋に澤木京一のためだけに勝利を目指すつもりなのか。


祈りを込めるかのような仕種をとってからまっすぐに俺を見つめてくる。



「ジェノスの連勝はここで終わる。大会の年間制覇は京一が手にすべき栄冠なのだ。だからこそ俺は決して敗北しないっ。ここでお前達を止めて見せるっ!!」



他を凌駕する圧倒的な気迫をみなぎらせながら獅子のごとき覇気を放って、

その強烈な存在感を見せ付けている。



「グランバニア魔導学園こそ最強の学園だっ!!!」



大声で宣言するその想いに同調するかのように、

盛長康平の魔力が肥大化して周辺一帯に重苦しい緊張感が広がっていった。



…ちっ。


…大した魔力だな。



俺でさえ驚くほどの膨大な魔力だった。


だからだろうか?



「「「「「………。」」」」」



背後に控える里沙達も言葉をなくして黙り込んでいる。



そんな重苦しい雰囲気の中で。


「それではこれより今魔術大会の第1回戦、第1試合を開始したいと思います!!!」


俺と盛長康平の会話を見守っていた係員が試合場の中央へと歩みを進めてきた。


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