黙って成り行きを
「ひとまず先に説明しておいたほうが良いだろうな。」
他にも話し合うべきことは幾つかあるかもしれないが、
面倒な方向に話が進む前に事情を説明しておいたほうが無難だと思う。
「まず最初に言っておくが、特別に今回の大会だけ俺達の補佐役として雪が救急班の一員に参加することが決まっている。」
「は?はあっ!?そんな話、聞いてないわよっ!?」
…だろうな。
今ここで教えたわけだから知らないのは当然だ。
「雪に関しては竜崎慶太が決定したことだからな。俺に文句を言ってもどうにもならないぞ?」
「………。」
俺の説明に対して一々いらだちを見せてくるが、
この際、里沙の意見なんてどうでもいい。
…気にするだけ時間の無駄だからな。
根本的な問題として、
俺に何を言っても雪の参加は拒絶できないからだ。
表向きは慶太の指示になっているし。
実際には天城総魔が関わっているわけだからな。
決定事項を覆すのは不可能でしかない。
…まあ、そこまでは言えないわけだが。
ひとまず事実を伏せるために慶太の名前を出しているわけだが、
それでも里沙の不機嫌は増していく一方のようだった。
「どうして魔術大会に竜の牙が口出ししてくるのよ!?」
「いやいや、竜の牙は関係ないだろ?俺達が優勝を目指す上で雪の協力があったほうが良いんじゃないかっていうだけの話だ。」
正確に言えば御堂のためだが、
それも説明できないからな。
「今回は雪の力が必要なんだよ。」
今はまだ最低限の説明しか出来ない。
「何よそれ!?その言い方だと私達だけじゃ優勝できないって言いたいわけ!?」
「いや…。そこまでは言わないが、雪がいることで少しは試合が楽になるんじゃないかっていう配慮だろ?」
「………。」
…はぁ。
出来る限り穏便に説明しようと努力したつもりなんだが、
どうあっても里沙が納得してくれる様子は見えなかった。
…と言うか。
そもそも里沙を納得させる必要なんてあるのか?
「試合に参加できない彼女に何が出来るっていうのよ!?」
………。
わざわざ里沙の許可をもらわなければならない理由はないよな?
それでもここで里沙を無視すると後々面倒なことになりかねない気がする。
…どこまでも面倒臭い女だな。
いい加減に百花か由香里辺りが里沙をなだめてくれても良いんじゃないかと思うんだが。
二人も里沙をなだめるのが面倒なのか、
黙って成り行きを眺めているようだった。
…ちっ!
…役に立たねえな。
二人はあてに出来ないらしい。
そう思ってため息を吐いた瞬間に、
俺が予想していなかった人物が動き出してしまう。
「あ、あの…。」
何故か雪から里沙に話し掛けていた。




