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THE WORLD  作者: SEASONS
5月13日
4004/4820

下手な発言をすれば

「淳弥。」


「ん?」


「もう開会式が終わったよ。」



…あ、ああ、そうか。



呼ばれてすぐに振り返ってみると、

御堂が開会式が終わったことを教えてくれた。



「もう終わったのか?」



試合順を考えている間に開会式が終わっていたらしい。



…確かに解散しているな。



周囲を見回してみると。


開会式が終わったことで移動を開始したり、

確定したトーナメント表を眺めながら雑談を始めている生徒達の姿が見えた。



…これなら偵察の時間が作れそうだな。



グランバニア魔導学園の情報を集めるためには、

一旦ここで御堂達と別れたほうが良いだろう。



…問題はどうやって話を切り出すかだな。



下手な発言をすれば里沙の足止めを受けかねない上に、

公平性を求める御堂に偵察の妨害をされかねないからだ。



…どう話せば良い?



あまり時間はない。


ここで時間をかけてしまうと他の学園の連中が挨拶にきて余計に行動しにくくなるかもしれない。



…姉貴達に会いに行くと話すべきか?



最も無難な説明だとは思うが、

俺が単独行動の言い訳に頭を悩ませている数秒の思考中に再び御堂から話し掛けてくれた。



「何か考え事でもしているのかい?」


「あ、ああ…まあな。抽選の結果とか、対策案をな…。」



嘘ではないが真実でもない適当な発言をしていると、

御堂は気楽な笑顔を浮かべながらポンポンと俺の肩を叩いた。



「対策を考えるのも良いけど、もう少し気を楽にしても良いと思うよ。もちろん優勝するつもりで試合に挑むわけだけど。最後まで全力で戦い抜いて出た結果なら勝敗はどちらでも良いと思うからね。」


「負ければ優勝できねえぜ?」


「負けてしまったらその程度の実力しかなかったってことだよ。」


「潔い考え方だな。」


「どうかな?負けるつもりがないと言っても良いと思うけどね。」



…ああ、なるほどな。



「そういう考え方もあるか。」



確かに戦えば必ず勝つという考え方でいくのならグダグダと思い悩む必要はないだろう。



…前向きと言える考え方だとは思うが。



おそらく御堂にとっては天城総魔との勝敗以外に苦悩することはないのかもしれない。



…まあ、天城総魔と比較すれば澤木京一にしてもフェイ・ウォルカにしても強敵とは言えないか。



頂点を知っているからこそ、

その下にいる敵は強敵とは呼びにくいだろうな。



…とは言っても、澤木京一達を弱いと判断できるわけじゃねえけどな。



油断できる相手ではないという事実を忘れるわけにはいかない。



…御堂が天城総魔しか見ていないとしても、俺は確実に勝ち上がるために動かさせてもらうぜ。



天城総魔にたどり着く前に御堂を魔術大会程度で挫折させるわけにはいかないからだ。



…それに大会の敗退は俺の人生さえも終わらせかねないからな。



慶太の期待と姉貴の指令がある限り、敗退だけは絶対に許されない。



「御堂」


「ん?」


「これからどうする?」


「このあとの予定かい?」


「ああ、そうだ。」



俺としてはここでのんびりと話し合っている時間はない。



「これからどうする?すぐに試合場に向かうのか?」


「うーん。それでも良いんだけど、さっき成美ちゃんに会いに行くって約束したからね。試合が始まる前にもう一度ちゃんと挨拶に行こうと思ってるよ。」


「そうか、それなら鈴置も行くのか?」



御堂が常盤成美に会いに行くなら常盤成美を保護している森下千夏もすぐ傍にいるはず。



「ええ、もしも時間があるのならもう一度話をしてこようとは思うんだけど。試合っていつ始まるのかしら?」



…どうだろうな?



初参加の俺もそうだが、

鈴置も大会の流れをイマイチ理解していないらしい。



「御堂、試合は何時からだ?」


「1回戦は9時からだよ。」



…9時か。



「それならまだ20分ほどあるな。」



決して余裕とは言えないが、

それだけあれば偵察は十分に実行できるだろう。



…好都合だな。



御堂と鈴置が離脱してくれれば里沙達を振り切るくらいは簡単に出来る。



「常盤成美に会いに行くなら早く行ってこい。俺達は一足先に試合場で待ってるからな。」


「ああ、うん。ありがとう、淳弥。それじゃあ少しだけ挨拶に行ってくるね。」


「おう。」



俺の後押しによって自由時間を手に入れた御堂は少し足早に俺達の側から離れて行った。


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