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THE WORLD  作者: SEASONS
4月3日
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魔術師の国で

《サイド:米倉美由紀》


う~ん。


これは…まずいわね。


完全に想定外としか言いようのない事態だったわ。


私の考えではもしも天城総魔が危険な人物であると判断された場合。


早急に翔子に対処してもらうつもりでいたのよ。


…それなのに…。


肝心の翔子がすでに戦意を失いつつあるのが分かってしまったわ。


戦う前からすでに心が負けているのが分かってしまったのよ。


これでは総魔に対する抑止力としての意味がなくなってしまうわね。


だからすぐにでも別の手を考える必要があるんだけど…。


「…だったら、最悪は一対一で勝ち目がなくても、貴方達ならなんとかなる。そうでしょう?」


期待を込めて問いかけてみたものの。


翔子は首を左右に振ってしまう。


「吸収の能力があるかぎり数は力になりません。そして何より『彼』が多対一を認めません」


うぅ。


そう言えばそうだったわね。


翔子の回答を聞いて、

更に唇を噛み締める結果になってしまったわ。


確かに翔子の言葉通りだからよ。


こちらの切り札である『彼』は、

いじめまがいのやり方には賛同しないのよ。


正々堂々と戦う事を望む『彼』に、

多対一の戦いを強制する事は難しいのよね。


その事実によって私の期待はあっさりと崩壊してしまう。


「だったら、どうするべきかしら?」


思い悩む私に翔子は笑顔を浮かべて答えてくる。


「信じるしかありません。天城総魔が敵ではない事を」


「信じて裏切られた場合の事を考えているのよ?」


「だからそうならないと信じればいいんです。少なくとも私は彼を信じてあげてもいいと思っていますよ。まあ、ホンの数時間ほど一緒に行動しただけなので、彼の本心まではわからないんですけどね」


「分からないのに信じるの?」


「最初から疑っていたら、向こうだって心を開いてくれませんから」


疑う前に信じること。


その前提を宣言して笑う翔子の笑顔に嘘偽りは感じられない。


いつ見ても思うけど。


「ホントに翔子はお気楽ね」


「それが私の取り柄ですから」


知ってるわ。


だから翔子に今回の役目をお願いしたのよ。


誰とでも気軽に接することのできる翔子だから天城総魔の監視を任せていたの。


下手に敵対せずに上手く友好関係を築いてくれると期待していたから翔子に監視を任せていたのよ。


だけどこれは問題としか思えないわね。


仲良くなるのは構わないけれど信用しすぎるのは問題だと思うからよ。


「翔子はもう少し緊張感を持ったほうがいいんじゃない?」


「そうですか?それなりに持ってるとは思うんですけど」


そうかしら?


とてもそうは思えないわ。


とはいえ。


本人に自覚がないのにこれ以上は何を言っても無駄でしかないわね。


「まあ、翔子のことはいいんだけど、彼に対してはもう少し慎重に行動したほうがいいんじゃないかしら?」


「影でこそこそするのって苦手なんですよね~。そういうのが『得意な生徒』は他にいますよね?」


「ええ、まあ、そうなんだけど…。それこそ彼と対立しかねないから難しいのよ」


「理事長は考えすぎですよ」


「考えるのが私の仕事なのよ」


「大変ですね~」


「他人事みたいに言わないで」


「他人事なんですけどね~」


「………。」


気楽に答える翔子の言葉を聞いて、

私はただただため息を繰り返す。


本当に別の方法を考えないといけないわね。


そんなふうに思いながらも、

まっすぐに翔子の顔を見つめてみる。


「どうかしましたか?」


まるで危機感を感じていないようなお気楽な表情で笑う翔子を見ていると、

考えるのが馬鹿馬鹿しくなってくる気がするわ。


そのせいでついつい気持ちを緩めそうになってしまうけれど、

すぐに自分の立場を思い直して軽く首を振ってから気持ちを落ち着けることにする。


「…まあ、いいわ。後の事はこっちで何とかしておくから、翔子は引き続き彼の調査を続けておいてくれる?」


「は~い」


笑顔で返事をした翔子は足早に理事長室から出て行ったわ。


本当に大丈夫かしら?


ちゃんと分かっているのかどうか不安に感じてしまうのよね。


それでも他に適任と思える人材はいないから、

お気楽な笑顔で立ち去る翔子の背中を見送ってすぐに何度目かのため息を吐いてみる。


祈るような心境ってこういう事を言うのかしら?


席から立ち上がって大きく背伸びをしてみる。


そしてもう一度、天城総魔に関して考えてみる。


もしも…。


もしも天城総魔が本当に安全な人物であったなら悩む必要は何もないわ。


…ないんだけれど、ね。


だけどもしも万が一にも危険人物であれば。


それは学園のみならず、

この国の存亡そのものにも影響を与えかねないと思うのよ。


国内最大級の学園においても圧倒的な能力の持ち主である天城総魔。


彼を世に解き放ったとなれば、

善悪を問わず何らかの影響が巻き起こるのは間違いないわ。


善であれば学園の評判が上がって自然と私の評価も上がるかもしれないけれど。


もしも悪であればそれはこの学園だけではなくて、

この国全土を脅かす存在になりかねないわ。


魔力の吸収という能力が厄介なのよ。


対魔術師戦において無敵といえる能力である吸収。


その能力が悪用されて国内で問題を起こされた場合。


事実上、彼を止める手段が存在しないことになってしまうからよ。


物理的な手段でなら対抗できるかもしれないけれど、

魔術師の国で魔術が戦力にならないという事態は決して見過ごせる問題じゃないわ。


そもそも物理的な手段って言っても、

向こうは魔術を使いたい放題なんだから接近すること自体が難しいのよね。


結界に触れただけで魔力が奪われてしまうということも考えれば、

直接殴りかかることも武器を持って戦いを挑むことさえも難しいし。


最善策として弓矢による長距離射撃が唯一有効的な攻撃方法かもしれないけれど、

それも防御されたらそれまででしかないわ。


確実に効果があるとは思えない作戦よね。


この国が魔術師の為の国だとしても、

手におえない魔術師を野放しにはできないのよ。


国の頂点に立つ者として管理できない力は害悪でしかないの。


だからこそ。


いかに天城総魔を味方として取り込むかが最大の焦点になっているんだけど、

そこが最大の難関なのよね。


翔子の説得が通じればいいけれど。


当初の期待は反転して、

現状は翔子が天城総魔に協力しかねない危険な状況になってしまっているわ。


まあ、翔子が裏切ることはないんだけど、

彼が野放しになるのは困るのよ。


何かの問題が起きたときに自分が責任を負うだけで済むのならまだいいの。


だけど最悪の場合。


対立している隣国から攻め込まれる大義名分を与えかねない可能性があるのよ。


いつ戦争が起きてもおかしくは無い微妙な関係を持つ隣国との戦争を避けて現状を維持する為に魔術師の評判を下げる行為を極力避けるようにしてきた歴代の代表者達の努力までを無駄にするわけには行かないわ。


「さて、どうするべきかしら…?」


絶望するような状況ではないけれど希望を持てる状況でもない。


早々に天城総魔を暗殺できれば面倒事は消え去るけれど、

もしも暗殺に失敗した場合は完全に敵対関係に陥るでしょうね。


さすがに危険すぎるわ。


最善は説得。


時点で交渉。


暗殺は最後の手段ね。


年下で一生徒でしかない天城総魔にそこまで気を使う必要があるのかどうかさえ現時点では不明だけど吸収という能力を確認した以上は何らかの対策を考えなければならないのよ。


そんな心の葛藤の中でわずかな可能性であってもなんとか望みを残そうと考えて総魔に対する新たな抑止力の準備を始める事にしてみる。


「頼むわよ、天城総魔。これでもあなたには期待しているんだから…」


小さな声で呟きながら、

密かに進めている『とある計画』の進行を願うことにしたわ。


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