急激な変化
…とまあ。
常盤成美の宿泊場所や森下千夏の言動など、
色々と話のネタになりそうな話題はあるものの。
今はこんな所でのんびりと話し合っていられる余裕はないと思う。
「まあ、何でもいいが…。そろそろ会場に移動したほうが良いんじゃないか?」
「「「「「…あっ!!」」」」」
俺の指摘によってそれぞれに時計へと視線を向けた御堂達が急激に慌て始めた。
「あと5分で開会式が始まる!」
…だよな。
…だから言ってるんだけどな。
通路の壁にある時計の針が午前7時55分を示していることで、
ようやく御堂も現状を理解してくれたようだった。
「あと5分だからな。少し急いだ方がいいんじゃないか?」
「…ったく!!のんびりしてないでさっさと行くわよ、淳弥っ!!」
………。
冷静に時間を指摘してみると真っ先に里沙が走り出して会場へ向かって行った。
…別にのんびりしていたつもりはないんだけどな。
どちらかと言えばのんびりとしていたのは御堂と鈴置なんだが、
反論してみようにもすでに里沙と百花はこの場にいない。
由香里もさっさと二人を追って行ったことで、
すでにここには俺と御堂と鈴置しかいなかった。
…ここで言い訳しても常盤成美と森下が気を使うだけだろうな。
こんな所で責任を負いあっても意味がない。
今はそんなことに時間を費やすよりもさっさと会場に急ぐべきだろう。
「御堂、鈴置。そろそろ行くぞ。」
声をかけてから会場に向かって移動を始めると、
二人はそれぞれに別れの挨拶をしていた。
「ごめんね、成美ちゃん。開会式が終わったら少し時間が出来るから、またあとで話を聞くね。」
「あ、はい。お忙しい所をお邪魔してすみませんでした。」
「ううん。成美ちゃんが来てくれただけですごく嬉しいよ。ただ今はあまり時間がないから、あとで僕から会いに行くよ。」
「はい♪待ってますね。」
「うん。それじゃあね。」
ほのぼのとした雰囲気で挨拶をする御堂と常盤成美の二人は見ていて微笑ましい光景だと思うものの。
「馬鹿千夏!あんたがどこで誰にお世話になろうと文句を言うつもりはないけどね。だけど成美ちゃんにお世話になるつもりなら宿泊料金はちゃんと負担しなさい!全額が無理だとしても、最低でも半分は負担しないと私が力付くで部屋から叩き出すわよっ!!」
「うぅ…。わ、分かったわよ…。払うから…ちゃんと払うから、そんなに怒らないでよ…っ。」
鈴置と森下の会話には険悪な雰囲気しか感じられなかった。
「それと!あんたと違って、か弱い成美ちゃんは一人だと危険だから、あんたが全力で保護するのよ!お世話になるんだからその程度の恩返しはちゃんとしなさい!良い?分かったわね!?」
「は、はい…。分かりました…。」
「おっけ~。それじゃあ、千夏。」
「…ま、まだ何かあるの?」
鈴置の剣幕に全力で怯える森下だったが。
「来てくれて、ありがとう。」
鈴置は天使のような優しい笑顔で微笑んでから、
急激な変化に戸惑う森下を残して開会式の会場に向かって歩きだしてしまった。




