お互いにだせる
「ありがとう、成美ちゃん。本当にここまで来てくれたんだね。」
「あっ、はい!約束ですから♪」
…ははっ。
魔術大会が開催されるグランパレスまで応援に来るという約束を守るために、
わざわざグランバニアまで来たらしい。
…真面目な子だな。
素直に御堂にはお似合いだと思う。
…常盤沙織の代わりを果たせるのはやっぱり常盤成美か?
二人の気持ちがどうかは知らないが、
御堂と常盤成美なら上手くやっていけるだろうと思う。
…それはまあ、良いんだが。
仲が良い二人には自由にしてもらって良いんだが、
御堂の隣に並ぶ鈴置が冷え切った瞳で森下を見つめているのが気になった。
「本当に来たのね千夏。わざわざグランバニアまで来るなんて暇なの?」
………。
冷たい言葉をかける鈴置だが、
森下の態度は変わらないようだ。
「だから言ったじゃない。美春がボコボコになる瞬間を見に…って、ちょっと待って!?無言でルーンを発動するのは止めてっ!!死んじゃうっ!本当に死んじゃうから!!」
…うーん。
自分の発言によって死の危機が迫っていることに気付いた森下は、
大慌てで鈴置の手を押さえ込んで殴られるのを防いでいる。
「じょ、冗談に決まってるじゃない…っ。ちょっぴり言ってみたかっただけの言葉を本気にしないでよ。本当に…本当に冗談なんだから、ねっ?」
「…ふ~ん。で?言いたいことはそれだけ?」
全力で祈りを込めるかのように鈴置に助けを求める森下だが、
鈴置の言葉はどこまでも冷え切っている。
「う、うぅ…っ。こ、怖い…。怖いわよ、美春…っ。」
「あら?そう?」
「ぅぅぅ…。ご、ごめんなさいぃ。」
鈴置の笑顔に死の恐怖を感じた森下は本気の涙を流しながら謝り始めた。
「本当は美春の応援に来ました…。だから怒らないで下さい…。」
切実に願う森下の姿はどこまでも惨めで、
見ているこっちのほうが申し訳ない気持ちになってしまうほどの哀愁を放っている。
…こっちはこっちで、どういう関係なのかが謎だよな。
里沙と百花も意味不明だが。
鈴置と森下の関係もイマイチよく分からない。
…女同士の考え方は俺には分からねえな。
だが、もしかするとそんなふうに素直な感情を『お互いにだせる』ことが親友という関係なのかもしれない。
…だとすると俺はダメだな。
自分の感情を全て隠して、
本当の自分を見せない俺には親友と呼べる相手がいないのかもしれない。
…御堂がどう思ってるのかは分からないけどな。
それでも里沙達や鈴置達のような『素直な仲の良さ』はないと思う。
だからだろうか?
たまに思うことがある。
里沙達のように自由に生きている人間が羨ましいと思うことがあった。
…俺には存在しない生き方だからな。
感情をさらけ出して素直な自分を見せる生き方に憧れにも近い何かを感じてしまう。
…まあ、自分でも想像できないけどな。
里沙達のように素直に生きている姿なんて全く想像できない。
…俺には無理だな。
影に徹して生きてきた人生が俺の生き方を束縛しているからだ。
…それに、いまさら性格なんて変えられねえ。
無理に変えたいとも思わないし。
今の自分に不満もない。
…俺は俺だ。
そう思うことで些細な憧れは心の奥底へ消え去ってくれる。
…別に不満はないしな。
そんなことを考えながら、
一歩引いた場所から御堂達の会話に耳を傾けることにした。




