これも思い出
時刻は午前7時30分。
朝食もほぼ食べ終えたことで一息吐いてみるものの。
用意された料理の山は3割程度しか減っていなかった。
…ほとんど減ってねえよな。
「結局、半分以上が残ったか。」
里沙と由香里が思っていた以上に頑張ったものの。
百花と鈴置がほとんど戦力にならなかったせいで大半の料理が残ってしまっている。
…俺も御堂もそれほど量を食べるほうじゃないからな。
それでも何とか量を減らそうとしていつも以上に食べてみたんだが。
あまり変わったようには見えない。
「普通に考えれば、このまま昼食にしてしまえる量だよな?」
「…あ、あはははっ。確かにそうだよね。」
満腹の苦しさを感じながら何気なく呟いてみたことで御堂が苦笑しながら頷いていた。
「前回までは真哉が完食してたから普通に感じてたんだけど。やっぱり僕達には多すぎるよね。」
………。
…この量を完食って。
「一体、北条の体のどこに収まってたんだ?」
「さあ?それは僕にも分からないよ。」
…だろうけどな。
苦笑いを浮かべたままで残っている料理を眺めた御堂は、
小さくため息を吐いてから再び俺に視線を戻した。
「まあこれも思い出だよね。」
…はぁ?
…そういうもんか?
俺は見たことがないから何とも言えないが、
御堂にとってはこんな所にも思い入れがあるらしい。
…まあ、それだけ多くの経験をしてきたってことだろうけどな。
俺の知らないことを御堂は経験している。
…学園の外に関しては俺の管轄外だったが。
今はこうして御堂と共にこの場所にいるんだ。
…不思議だよな。
一生を密偵として活動するはずだった俺が今は何故か普通に表舞台にいる。
…どこで俺の人生が変わった?
そのきっかけがどこなのか?今はもう誰にも分からない。
…だが。
翔子と出会ったことで俺の人生は変わったのかもしれない。
そう考えれば今の人生も悪くないと思う。
…表舞台か。
これが最初で最後かもしれないと思う気持ちも確かにあるが、
今はこの状況を楽しみたいと感じていた。
…一度くらいは良いよな。
一度くらいは光の指す世界を楽しんでみたいと思うからだ。
…せっかくの機会だしな。
何も考えずに馬鹿なくらい無邪気にはしゃいでみたい。
それに学園生活最後の思い出作りには相応しい舞台だ。
御堂達と過ごした最後の思い出として表舞台を楽しもうと思う。
…まあ、精一杯やるさ。
任務以上の楽しみを感じつつ。
早々に席を立ってから会場への出発の準備を始めることにした。




