私が見殺しに
…え~っと。
総魔さんが一足先に控室を出てしまったことで取り残されてしまいました。
…わ、私も行かないとっ。
総魔さんを追うために慌てて席を立ち上がろうとしたところで、
米倉さんが私に対しても微笑みを向けてくれました。
「きみも無事で何よりだ。」
「ぁ、ぃ、ぃぇ…。」
「一人でも多くの生存者がいてくれたことは素直に喜ぶべきだと思う。美由紀に関しては残念な想いがあるが、きみ達が生きていてくれて本当に良かった。」
「あ、はい…。すみません…。」
喜んでいただけるのは嬉しいんですけど。
こういう時にどう答えれば良いのかが分かりません。
「あの…その…。米倉理事長は…」
「…良いんだ。何も言わなくても分かる。美由紀はきみ達のために命を懸けて戦ったのだろう?自由奔放で強引な部分もある娘だったが、責任感だけは人一倍強い性格だったからな。まっ先に激戦区に飛び込んできみ達の囮にでもなったのだろう?」
「あ、は、はい…そうです。」
私や御堂先輩を総魔さんの下へ送るために。
米倉理事長は北条先輩と二人でアストリア軍に戦いを挑んでくれました。
「私や御堂先輩を逃がすために、数万の軍勢に対してたった二人で戦いを挑んだんです。」
「ふっ。馬鹿な娘だな。そんな無謀な戦いに勝ち目などないだろうに…。」
………。
米倉理事長を馬鹿と言った米倉さんの瞳から一滴の涙がこぼれ落ちるのが見えました。
…ごめんなさい。
私が見殺しにしたんです。
北条先輩も。
翔子先輩も。
そして米倉理事長も。
私が見殺しにしたんです。
私だけが逃げて生き延びたから、
今もこうしてここにいられるんです。
「米倉理事長が私を守ってくれたんです。」
「…そうか。」
米倉さんは詳しい事情は何に聞かずに涙を拭ってから笑顔を浮かべてくれました。
「美由紀が命を懸けたことできみ達が生き残れたのなら、それだけでも良かったと心から思う。一人の大人として、そして一人の教育者として、生徒を守って迎える最期ならば美由紀も悔いはないだろう。だから娘を失った悲しみが消えることはないとしても、その事実を思えば美由紀の死も受け入れられる。」
………。
米倉さんは最期まで戦い抜いた米倉理事長の勇姿を誇りに想いながら精一杯の笑顔で私を見つめてくれました。
「良く帰ってきてくれた。ありがとう。」
「い、いえ…。」
…本当に。
本当にこういう時にどう応えれば良いのかが分かりません。
…上手く答えられる言葉が見つからないです。
このもどかしい気持ちをどうすれば米倉さんに伝えられるのでしょうか?
そんなふうに悩んでしまったのですが、
米倉さんは最後まで笑顔を見せてくれていました。
「もう行きなさい。彼が待っているのだろう?」
「あ、は、はい…っ。すみません。」
「いやいや、謝る必要はない。きみにも心に抱える想いがあるだろうからな。それが何かは俺には分からないが、きみの思うように生きなさい。そして今を生きる者として、悔いの残らないように精一杯生きなさい。」
「は、はいっ!ありがとうございます。」
「ははははっ。」
あわてふためきながら返事をするのが精一杯の私に微笑んでから、
米倉さんはそっと扉へと視線を送ってくれました。
「また会おう。」
「は、はいっ。」
「うむ。」
私との挨拶を終えた米倉さんは栗原さんにも振り返ってから別れを告げていました。
「きみも行くといい。」
「米倉元代表はどうされるんですか?」
「俺か?俺は…そうだな。もう少しだけ気持ちを整理してから会議室に戻ることにする。」
「お一人で大丈夫ですか?」
「ははっ。心配する必要はない。美由紀を忘れることは出来ないが、天城君が生きていてくれたことを考えればこれからもまだ生きていく希望が持てる。俺にとっては息子同然に思える彼が共和国のために戦おうとしているのだ。俺が落ち込んでいる場合ではないだろう。」
「それでは…。これからは天城君のために生きていくということですか?」
「いやいや、そんな大袈裟な話ではないが、総司を守れなかった分まで彼を守りたいと思うだけだ。」
………。
どうやら米倉さんは総魔さんのお父さんの分まで総魔さんを守ることで過去の苦い思い出を乗り越えようとしているようですね。
「俺に出来ることがあれば遠慮せずに何でも言ってくれ。彼のためならばどんな努力も惜しまないからな。」
「分かりました。伝えておきます。」
「ああ、頼む。」
総魔さんと共に旅立つ覚悟を示す私と栗原さんにも協力を誓ってから、
米倉さんは私達の背中を見送ってくれました。
「また会える日を楽しみにしている。」
「はい。ありがとうございます。」
改めて米倉さんに一礼してから、
栗原さんと一緒に控室を出ることにしました。




