渡すべき相手は
「最後に一つだけ頼みたいことがある。」
もう一度だけ念を押すかのように話し掛けた総魔さんは、
米倉さんと真っ直ぐに向き合いながら最後のお願いを言葉にしました。
「お前が持っている『原始の瞳』を貰いたい。」
「…何だと?」
「御堂に預けた物だが、今はお前が持っているはずだ。」
「………。」
自信をもって宣言する総魔さんの言葉を聞いて、
米倉さんは驚き戸惑うかのような表情で見つめ返していました。
「何故、そう思う?」
「御堂の性格から考えて、いつまでも持ち続けているとは考えにくいからな。貴重な能力を持つ水晶玉とは言え、すでに不要な存在になったモノを意味もなく預かり続けようとはしないはずだ。」
…なるほど。
総魔さんは御堂先輩の性格を考慮した上で、
米倉さんが原始の瞳を所持していると判断しているようですね。
「御堂なら学園に返却しようとするはずだ。だが米倉美由紀が死んだ今では返すべき相手が存在しないからな。現時点で返せる相手は必然的に限られてくる。」
「その考えならば近藤誠治が受けとった可能性もあるだろう?」
「いや、それはない。」
「何故だ?」
「御堂にとって原始の瞳は俺や米倉美由紀の形見とも言える存在だからだ。アストリア王国で死亡した者達の想いが込められた大切なモノだと考えているとすれば、それほど大切なモノを渡すべき相手は一人しか考えられない。」
「………。」
米倉理事長が用意して総魔さんから御堂さんに託された形見に等しいモノだから、
他の誰でもなくて米倉さんに返されたはずだと判断しているようでした。
「お前が持っているはずだ。」
「………。」
はっきりとした口調で断言する総魔さんの指摘を受けた米倉さんは、
それ以上の反論を諦めて素直に原始の瞳を机の上に出してくれました。




