今回はたまたま
「自分を責めたいと思うのなら好きにすればいい。だが俺は今回の戦争をお前の行いのせいだとは思わない。」
まっすぐに向き合いながら話し始めた総魔さんは、
米倉さんの迷いや悩みの全てをはっきりと否定し続けました。
「確かに兵器の開発によって戦争が起きたのかもしれない。五十鈴菜々子の生み出した悪夢によって共和国が窮地に陥ったのも間違いない。だがそれはあくまでも一つの可能性に過ぎないはずだ。」
「…どういう意味だ?」
「今回はたまたま五十鈴菜々子だったというだけだ。兵器に関する研究は五十鈴菜々子一人で行っていたわけではないはずだ。アストリア王国が研究所を立ち上げて進めていた兵器の開発に五十鈴菜々子が協力していただけだろうからな。」
「それは、そうかもしれないが…。」
「五十鈴菜々子は発端の一人でしかない。根源という意味で考えるなら魔術師狩りを行っていたアストリア王国そのものに原因があり、暴走を過熱させた竜の牙にある。決して五十鈴菜々子一人をきっかけとして戦争が起きたわけではないはずだ。」
「確かにそれはそうなのだが…。」
総魔さんの話を聞いてもまだ米倉さんは納得できないようでした。
「だが、兵器が生まれたのは…」
あくまでも自分の責任だと考える米倉さんですが、
総魔さんは説得を続けるようでした。
「五十鈴菜々子がいなくても兵器はいずれ完成していたはずだ。根本的な理論や開発技術に関しては五十鈴菜々子が研究所に入る前から考えられていただろうからな。五十鈴菜々子が果たした役割は兵器の早期開発のための技術の確立だけだろう。」
「それは彼女自身も言っていたが…。」
「兵器の生みの親はアストリア王国そのものだ。だからこそ五十鈴菜々子の生死に関わらず、兵器はいずれ開発されていたはずだ。」
…ですよね。
総魔さんの推測は私でも理解できます。
五十鈴菜々子さんは復讐のために龍脈研究所に入ったんです。
つまりその研究所にはすでに復讐を成し遂げるための力が存在していたということです。
だから五十鈴菜々子さんが開発に携わる前に、
兵器の研究自体は行われていたはずです。
…五十鈴菜々子さんは兵器を完成させただけですよね。
それが最も重要な部分ではありますが、
可能性という意味で言えば五十鈴菜々子さんがいてもいなくても兵器は完成していたかもしれません。
…総魔さんが言うように、今回は五十鈴菜々子さんだったというだけです。
もしも五十鈴菜々子さんが研究所にいなければ、
別の誰かが兵器を完成させていたかもしれないからです。
…だから。
だから米倉さんがどんなに手を尽くしていたとしても戦争は起きていたと思います。
それが真実で。
きっと事実です。
…だから米倉さんは何も悪くありません。
そんなふうに考える私の隣で、
総魔さんは米倉さんに微笑みを見せました。
「過ぎた過去を嘆いても現実は変わらない。今の俺達が成すべきことは共和国の未来を守り抜くことだ。」
「…ああ、そうだな。」
お互いに共通として掲げる目標を言葉にすることで、
総魔さんは米倉さんの罪を過去の出来事として流しました。




