表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
THE WORLD  作者: SEASONS
5月12日
3922/4820

断念した

………。



総魔さんの説明が始まってから数分の時が流れました。



「…という流れになる。」



アストリア王国の消滅や竜崎さんとの出会い。


反乱軍の砦に身を潜めていたことと。


ミッドガルムの各地を巡って立花光輝さんともお話したことを全て説明してから。


総魔さんは全ての話を終えました。



「ミッドガルム国内において俺がやるべきことは全て終わっている。あとは…」


「共和国での仕上げということか?」


「ああ、そうなるな。」


「何を目論んでいる?」


「その話をするためにここに来た。」


「病気の治療だけではないのだな?」


「それは美由紀との約束だからだ。俺の目的は別にある。」


「美由紀か…。きみは美由紀の最期を見届けてくれたのか?」


「ああ、最期の想いを受け継ぐと同時に美由紀の心も聞いたからな。」



…理事長さんの?



「美由紀の心だと?」


「ああ、そうだ。」



…そこは私も気になっていました。



想いを残すことはしなかったのに。


総魔さんの精霊になったのはどうしてなのでしょうか?



その辺りの理由をまだ聞いていないのですが、

もしかしたらここで決めるのでしょうか?



「もう一度聞くが、自らの中に美由紀の魂が存在している可能性を考えたことはないか?」


「…それならばさっきも答えたが、考えたことはある。決して望みはしないがな。」


「ああ、お前ならそう言うだろうと思っていた。だからこそ美由紀はお前の助けになることを断念した。」



…え?



「断念だと?」


「ああ、そうだ。美由紀は諦めるしかなかった。お前の力になることを…。お前に想いを遺すことを諦めるしかなかった。」


「何故だ?」



…どうしてなのでしょうか?



「血の繋がった娘だからこそ、父の性格は良く知っているということだろうな。」



…性格?



「美由紀はお前の性格を把握済みだ。だから下手に力を残して貸しを作れば、お前はきっと自らを責め立てるだろうと考えた。」



………。



「…否定は出来んな。」


「だろうな。現に今でもまだ自分を許し切れていないのだろ?」


「…ああ。」


「だからだ。だから美由紀は想いを遺すことを断念するしかなかった。お前の心を尊重して、自らの消失を受け入れるしかなかった。」


「それはつまり、俺のために死を選んだということか?」


「死者に対して死を選ぶという表現は正しくないが、簡単に言えばそういうことになる。父に想いを遺すのではなく、父を信じて消える道を選んだのは事実だからな。」


「…ふっ。美由紀らしい考え方だな。」



…ですね。



父娘だからこそ分かり合える部分があるということだと思います。



「俺のために…か。」


「………。」



理事長さんの配慮に気付いたことで淋しそうな表情を見せる米倉さん見て、

総魔さんは何かを伝えようとしていました。



「美由紀からの最期の言葉を伝えておこう。」



…理事長さんが残した言葉?



そこもまだ私も知らない部分なのですが。


総魔さんは理事長さんとの約束を果たすために、

米倉さんに最後の伝言を伝えるようでした。



『お父さん、今までありがとう。』


「っ!?」


『私はもう帰れないけれど、私の心はいつでもお父さんの傍にいるから。だからお父さんは負けないで最後まで生きてね。』


「…み、美由紀っ!」


『私はこれからもずっと、天国にいるお母さんと一緒に、ずっと応援してるから。だからお父さんは絶対に死なないでね。』



…理事長さん。



それが理事長さんの最後の言葉のようでした。



「…くっ!」



総魔さんからの伝言を聞いたことで、

米倉さんは隠すことなく悲しみの涙を流していました。



「美由紀ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ…っ!!!」



私達の目の前で。


とても大きな声で。


感情をあらわにして泣き出したんです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ