偶然でも幸運でもなく
「どうやらお互い無事のようだな。」
「………。」
小さく微笑みながら語りかける総魔さんをしばらく見つめていた米倉さんでしたが。
状況確認のために総魔さんとの会話を後回しにしたようで、
背後にいる栗原さんに振り返ってしまいました。
「まさか、きみは知っていたのか!?」
「え?え~っと…。まあ、はい…。」
「いつからだ!?」
「そ、その…。王都ミッドガルムで兵器の直撃を受けた時からですけど…。でも実際に確信をもったのは終戦後に竜崎慶太と行動してからです。」
「何故だ!?何故、今まで黙っていた!?」
「そ、それは…その…。」
大きな声で次々と質問を続ける米倉さんに怯えながらも何とか答えようとする栗原さんでしたが。
栗原さんが返事に迷う様子を見ていた総魔さんが再び米倉さんに話し掛けました。
「薫が黙っていたのは俺の生存を誰にも知られないためだ。」
「それはどういう意味だ!?何故、きみが隠れる必要がある!?」
「アストリア王国での戦争によって、一時的に戦闘不能の状況に陥っていたからだ。」
「何…?」
室内に入り込んで来た米倉さんに説明するために、
総魔さんは事実だけを伝えようとしていました。
「詳細もこれから説明するが、俺が倒れていた間の護衛は優奈が行ってくれていた。」
「深海君が?」
「ああ、そうだ。そのせいで俺達は共和国に戻れる状態ではなかった。」
「だから隠れていたというのか?」
「ああ。敵の襲撃を回避するためには情報を伏せるしかないからな。」
「敵だと?」
「それはミッドガルム軍でもあり、かつて竜の牙を名乗っていた者達でもある。」
「っ!?…そうか!身動きの取れない状況で生存を隠し通すために、きみが生きているという情報を隠蔽していたのだな。」
「ああ、そうだ。だからこそ竜崎達は全てを知っていながらも何も話さなかった。」
「くっ!そういうことだったのか!!」
総魔さんの説明を聞いたことで、
米倉さんは隠されていた真実に気付いたようでした。
「竜崎達が求めていた最強の魔術師というのはつまり!」
「…俺のことだろうな。」
「やはりそうか!それならば全ての事実が理解できる!」
奇跡として遺された意思の存在や、
兵器を破壊するための道標として行動していた私の存在。
そして竜崎さん達の行動や最後まで隠されていた最強の魔術師の謎に関して。
米倉さんは全て理解したようでした。
「全ては偶然でも幸運でもなく、きみの計画通りに動いていたということか!」
「…部分的にはそうだ。だが、俺は道を示しただけに過ぎない。戦争を終戦に導いて結果を作り上げたのは俺ではないからな。共和国を守り抜いたのはお前達だ。決して俺ではない。」
「だとしてもだ!!きみの力によって俺達は守られていたのだろう!?」
「…どうだろうな。俺は俺の役目を果たしただけだ。」
「きみの役目とは何だ?」
「遺された意思を守り抜くことだ。」
「遺された意思だと!?」
「ああ、そうだ。そして今日ここに来たことにも意味がある。」
「ここに来た意味?」
「俺はまだ全ての目的を果たし終えたわけではないからな。」
「何を企んでいるんだ!?」
「…企むというのは少し違うが、俺の役目は遺された意思を受け継いで最期の願いを叶えることだ。」
「最期の願いだと?」
「ああ。遺された意思である米倉美由紀の名において、お前に進むべき道を示す。」
「っ!?」
まだ事情が飲み込めない米倉さんに対して、
総魔さんはここへきた最初の目的を宣言しました。




