噂よりも
少し離れた場所にい里沙先輩と百花先輩も様子を見守る中で、
近づいてきた理事長さんが総魔さんに話し掛けました。
「ひとまずはご苦労様、とでも言うべきかしら?」
笑顔で接する理事長さんですが、
純粋に総魔さんの勝利を喜んでいるわけではないと思います。
たぶんですけど。
総魔さんを戦力として見ているだけではないでしょうか?
魔術大会に総魔さんの力が必要だと言っていたので、
その確認が出来たことを喜んでいるように思えます。
実際にどうなのかは分かりませんし、
理事長さんがどんな方なのか私は何も知りません。
ですが、何となくそんな気がするんです。
総魔さんはどう考えているのでしょうか?
総魔さんの考えも私にはわかりませんが…。
「ここで話し合うのは二度目だな」
総魔さんは理事長さんと静かに向き合っていました。
「おおよその予想は出来るが、話があるなら聞かせてもらう」
「ふふっ。ありがとう。そう言ってもらえると話が早くて助かるわ」
感謝の言葉を告げてから、
理事長さんは私達全員に『例の話』を始めました。
「天城君と御堂君にはすでに話を進めてあるんだけど、今週末の『魔術大会』にあなた達全員に参加してもらいたいのよ。」
全員と言ってから、理事長さんは悠理ちゃんに視線を向けて話を付け加えました。
「あ~、えっと…。あなたには関係のない話なんだけどね。近藤悠理さん」
「…ですよね。」
やっぱり…と、呟いて肩を落とす悠理ちゃんですが。
理事長さんは微笑みながら言葉を続けました。
「あなたの成績に関しても報告は受けているわよ。思ったよりも成長しているみたいね」
「えぇ、まぁ、はい」
話をしているのに、
悠理ちゃんは理事長さんと視線を合わせようとしませんでした。
どことなく気まずい雰囲気ですね。
もしかして、理事長さんとは仲が悪いのでしょうか?
会話を聞いている感じだと知り合いのようにも思えるんですけど。
理事長さんと知り合いだという話は今のところ聞いたことがありません。
「あ~、その~、ごめんね。別にあなたを責めてる訳じゃないのよ?ただ、噂で聞いていたよりも優秀な成績を出しているから、ちょっと驚いただけなの」
ん?
どういう意味でしょうか?
理事長さんは噂よりも優秀だから驚いたと言いました。
ですが、噂って何でしょうか?
悠理ちゃんにどんな噂があるのでしょうか?
悠理ちゃんの顔を覗き込んでみても答えは分かりませんが、
少し辛そうな表情を浮かべている気はします。
「悠理ちゃん?」
心配になって声をかけてみたのですが、
悠理ちゃんはぎこちない笑顔を浮かべながら微笑んでいました。
「だ、大丈夫。大丈夫だから、気にしないで…」
無理に笑顔を浮かべる悠理ちゃんがなんだか余計に辛そうに見えます。
何かあったのでしょうか?
私の知らないところで、悠理ちゃんを苦しめるような何かがあるのでしょうか?
考え込んでしまう私に、
悠理ちゃんは微笑み続けてくれました。
「私は大丈夫だよ。優奈」
何度も大丈夫だと言ってくれる悠理ちゃんですが、
無理に微笑む悠理ちゃんの表情が私の心を締め付けます。
とても大丈夫には見えないんです。
どう考えても無理をしているようにしか見えないんです。
「悠理ちゃん…。」
どう声をかければいいのかがわからなくて。
そっと悠理ちゃんの手を握ってみると…。
「…あとで、話すね。」
悠理ちゃんもほんの少しだけ力を込めて、私の手を握り返してくれました。
ですがそのあとは俯いてしまって、
悠理ちゃんは一言もしゃべらなくなってしまいました。
「………。」
黙り込んでしまった悠理ちゃんを見ていた理事長さんも少し困ったような表情を浮かべています。
詳しい事情はわかりませんが、
わざと悠理ちゃんを追い詰めているわけではないようです。
「ごめんなさいね。余計なことを言ったかしら?」
どう対応するべきか戸惑う様子の理事長さんですが、
話の流れを変えるために翔子先輩が動き出しました。




