お留守番
「ミルクに魔力を送るんですか?」
すでにミルクには十分な魔力を分けているつもりなのですが、
それでもまだ足りないのでしょうか?
「魔力は足りてると思うんですけど…?」
「いや。」
素直に疑問を問い掛けてみると、
すぐに理由を教えてくれました。
「優奈が魔力を変換すればミルクへの魔力の供給が断たれることになるからな。そうなれば優奈の魔力で存在しているミルクは優奈の魔力が失われた瞬間に消滅することになるはずだ。」
…えっ!?
…えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!
「そ、それは…っ!」
それだけは絶対にダメです。
ミルクを死なせるなんて私には出来ません。
「ミルクを失うのは嫌ですっ!」
「そうならないために優奈の魔力を分け与えるんだ。そして町の中に入る間だけはミルクを町の外で待機させておく必要がある。」
「私の魔力を探知されないために、ですよね?」
「ああ、そうだ。優奈自身は魔力の波動を変換すれば町の中に入れるが、ミルクの魔力の波動は隠しきれないからな。矢島美咲の隠蔽技術があればミルクを同行させることも出来ると思うが、現状ではそこまでの理論は完成していない。」
…そう、ですよね。
ミルクと一緒にグランパレスに行けると思っていたのに、
実際にはミルクだけは町の中に入れないようでした。
「ねえ、ミルク。ミルクはここでお留守番できる?」
「みゃ~っ♪」
すごく残念な気持ちで問い掛けてみたのですが、
ミルクは明るい声で返事をしてくれました。
「ごめんね。」
「みゃ~っ♪」
ピョコンと私の肩から飛び降りたミルクは、
私の足元をちょこちょこと走り回ってから私を見上げてくれています。
「みゃ~っ♪」
…ミルク。
私を思ってくれるミルクの優しさが痛いくらいに感じられるんです。
「一人で大丈夫?」
「みゃ~っ♪」
「心配だけど…。魔力だけは送っておくから無理はしないでね。」
「みゃ~っ♪」
頷くかのように小さく頭を振ったミルクは、
魔力を受け取ってからすぐに草原の中へ走って行きました。
「みゃ~っ♪♪♪みゃ~っ♪」
まるで本能が目覚めたかのように草原を走り回っています。
その姿は生きていた頃のようで、
草原の中で自由気ままに楽しんでいるように見えました。
「大丈夫そうですね。」
「心配ならまた様子を見に来ればいい。」
「はいっ!」
用件さえ済んでしまえばすぐにミルクに会いに来ます。
「またあとでね。ミルク♪」
「みゃ~っ♪」
無邪気に走り回るミルクに大きく手を振ってから、
私は私自身の魔力の波動を変換することにしました。




