試作段階
「何だか…緊張しますね。」
レーヴァの町に入った時以上に心臓の鼓動が早くなってしまいます。
「このままグランパレスに向かうんですか?」
「ああ。そのつもりだが、その前にやるべきことがある。」
…やるべきこと?
グランバニアでやらなければならないことって何かあったでしょうか?
「やるべきことってなんですか?」
「町に入るための準備だ。」
…?
特に思い当たることがないのですが、
総魔さんは準備がしたいと言っています。
「準備って何をするんですか?」
「町に入る前に優奈の魔力の波動を隠蔽しておいたほうが良いだろう。」
…え?
…私の魔力を隠蔽する?
「それって昨日の矢島美咲さんのように、ということですか?」
「ああ、そうなるな。だが今はまだ理論が完成したとは言えない部分があるからな。全く同じとはいかないだろう。」
「…と言うことは、未完成ですか?」
「正確に言えば試作段階だな。」
…試作?
「何が違うんですか?」
「一度使えば何を修正すれば良いのかが分かる。優奈自身が実験することで完成するはずだ。」
…ああ、なるほど。
…それってつまり。
「私自身で私の魔力を隠蔽するということですよね?」
「ああ、そうなるな。」
…えっと。
「出来るでしょうか?」
「優奈なら出来るはずだ。他では難しいかもしれないがな。」
「どうするんですか?」
「単純な方法だ。他人の魔力を吸収して自らの波動に変換するように、自らの波動を別の波動に変えれば良い。」
…え?
…別の波動に?
「私の魔力を別の魔力の波動に変えるんですか?」
「ああ。それなら優奈でも簡単に出来るはずだ。昨日の魔女のように完全に遮断するのは難しいが、変換だけなら難しくはないからな。」
…確かに。
矢島美咲さんのように魔力の波動を遮断する技術は私にはありませんが、
私自身の魔力の波動を別の波動に変えるだけならそれほど難しくはありません。
「変える波動は何でも良いんですか?」
「好きにすればいい。だが知り合いと同じにはするな。全く同じ波動が二つあると不自然だからな。」
…あ、はい。
…そうですよね。
「気を付けます。」
知り合いにはいない魔力の波動に調整しておこうと思います。
「それでは始めますね。」
「ああ。だが、その前にミルクに優奈の魔力を分け与えておいたほうが良い。」
…え?
…ミルクに?
私自身の魔力の波動を別の波動に変換しようとしたところで、
何故かミルクに魔力を分けるように指示を受けました。




