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THE WORLD  作者: SEASONS
4月3日
39/4820

魔導師

《サイド:美袋翔子》


「……ということで、以上が天城総魔に関する報告になります」


今日の監視活動の報告を終えてみる。


何だかんだで今日も報告内容が多くて説明するのに時間がかかっちゃったけれど、

対面のソファーに座っている理事長は満足そうな笑顔を浮かべながら頷いてくれたわ。


「ごくろうさま。今日もなかなか興味深い報告だったわね」


でしょうね~。


監視してる私自身も気になることが多すぎて知りたいと思うことが沢山あるくらいだから話を聞いてるだけの理事長も疑問満載だと思うわ。


ひとまず私の努力と苦労を労いつつ、

理事長は手元にある資料の束に視線を向けてる。


書類に記されている情報は理事長の常識を遥かに逸脱するみたいだけど、

だからと言って私の報告を疑うようなことはしなかったわ。


まあ、私を信頼して監視を依頼してくれてるんだから信じてもらわないと困るんだけどね。


監視の結果として届いた報告が想定外の出来事だったとしてもとりあえず信じてくれているみたい。


「吸収に続いて魔術の高速化まで実現するなんて、とんでもないバケモノね~」


やっぱり理事長でもそう思うようね。


私も同意見だし。


異論はないわ。


で、肝心の報告書なんだけど。


理事長の手元にある資料は全て私が用意したものだから、

当然だけど資料の内容は天城総魔に関する記述で埋め尽くされているわ。


その中で最も目を引く内容は二つの魔術の存在かな?


『ホワイト・アウト』と『エンジェル・ウイング』ね。


どちらもこの学園始まって以来の括目すべき能力だと思うわ。


でもまあ、魔術の高速化はまだそれほど驚く内容じゃないかな?


似たような能力は他にも存在するしね。


ただそれらは特殊な才能を持つ人の固有能力だから一般的な普及はしていないのよ。


それでも一部の実力者の間では魔術の高速化はすでに実証されているわ。


私の親友もその一人なんだけど、

さすがに総魔ほどの高速能力はないわね。


だから高速化の技術の中で圧倒的な速度を実現しているのが総魔なのは間違いないと思う。


それでも高速化の理論はそれなりに理解できる範囲だから重要なのはもう一つの魔術なのよ。


実現不可能とまで言われた吸収っていう能力をどんな理論で構築しているのかが分からないの。


詳細は完全に不明だしね。


それなのに確認された現象がまやかしなんかじゃないことは明らかになってるわ。


実際に何度も見てきたし。


だから当然、理事長もその能力を気にしてるみたい。


「魔力の吸収。やっぱりこれが一番の問題よね」


吸収という能力が実在の魔術として使用されている事に理事長は多大な興味を惹かれてるようね。


可能であればその技術を教えてもらいたいって思うくらいには総魔に興味を抱いてるんじゃないかな?


「それで?理論の解析の方は進んでいるの?」


現状でどこまで解析が進んでいるのかが気になるようね。


解析の進歩状況を問いかけてくる理事長だけど、

私としては首を左右に振ることしかできないわ。


「それが…。研究部門にも調査を頼んで見ましたが、全くと言っていいほど進展がありません。現時点では仮説すら立てられないとの事でした」


現時点では何もわからないっていうのが答えなのよ。


その回答によって理事長は大きくため息を吐いてるわね。


「ふう。やっぱりすぐには無理そうね」


実現不可能と言われていた分野だから仕方がないんだけど。


吸収魔術の理論に関しては解析どころか理論構築すら分からないというのが実情なのよ。


「…でも、不思議な話よね~」


ですよね。


すでに起きている現象を複数の関係者が確認しているのに、

いまだに理論の糸口でさえも発見出来ずにいるのよ。


そんな現状に関して理事長は頭を抱えるたくなる思いを感じてるみたい。


だから唯一の解決策として最も天城総魔の近くにいる私に尋ねてくる。


「それで?彼は何て言っているの?」


「総魔ですか?相変わらず詳細に関しては黙秘を続けています。こちらから声をかければちゃんと対応はしてくれますので話をしないというわけではありませんが、それでもあまり多くは語らない性格のようですので詳しいことはわかりません。」


「そうなると、今はまだ直接聞き出すのは無理そうね」


「それ以前に、理論が分かっても私達が使用出来るようになるかどうかは別問題ですが…」


「ええ、そう。問題はそこなのよね。」


私の指摘に対して小さく答えてから、

理事長は再びため息を吐いてる。


「これまで実現されなかった技術であることを考えれば、吸収の理論は汎用的な技術ではなくて、特定の才能を必要とする固有能力だと考えるべきでしょうね」


世界的に見ても…

歴史的に見ても…

他に類を見ない非常に興味深い能力。


吸収。


その能力の秘密を解き明かせば魔術界に大きな波紋を呼び起こすのは間違いないわ。


だけど。


これまで存在しなかった技術が誰にでも簡単に使える理論だとは思えないのよね。


だからもしも仮に理論構築が理解できたとしても、

特別な才能がなければ使えないんじゃないかなって考えているの。


…って、こんなに他人のことを考えさることってなかなかないわよね?


自分でも驚くほど天城総魔という存在に興味を惹かれていると思う。


「まあ、現時点では難しいとしても…今後はなんとかなりそうなの?」


これからの努力で事態が好転するのかどうか?


難しい注文をしてくる理事長だけど、

とりあえずは少し思い悩むような表情を見せてから否定しておくことにしたわ。


「正直に言ってこれ以上の調査は無理だと思います。解析部門でさえも解析不可能と判断したことを私が調べあげられるとは思いませんし…。それに、そもそもの前提として、総魔はすでに私達の実力を上回っている可能性もあると思います」


「…えっ?」


はっきりと告げる私の発言によって、

理事長は戸惑いを隠しきれずに目を丸くしてる。


一瞬何を言われたのかが分からなかったみたい。


頭では理解しているのに、

心の中でありえないと思う気持ちがあったんだと思う。


滑稽だと思えるくらい、

はっきりと驚いているのが分かったわ。


だからすぐに思考を整理しようとしても思うように頭が回らなかったようね。


それほどの驚きを感じるほど、

私の発言は理事長の予想を大きく上回るものだったようね。


「翔子はどう判断しているの?」


何とか口に出したその言葉は微かにだけど震えているように思えた。


別に怯えてるわけじゃないでしょうけど、

考えが上手くまとまらない感じかな?


私としてもどう答えればいいのか分からないけれど。


「あくまでも私の個人的な見解ですが、おそらくは…」


一旦言葉を切ってから、

意を決したかのように真剣な面持ちで言葉を繋げてみる。


「今はまだ可能性であって確信ではありませんが…。おそらく天城総魔は単なる魔術師まじゅつしではなくて、魔導師まどうし魔法まほうの使い手であると思います」


私の言葉を聞いて理事長は静かに頷いてる。


その可能性ならすでに考えていたみたいね。


そしておそらくそのはずだとも考えていたんだと思う。


「本人はいまだに実力を隠して行動している為に正確なことは分かりません。ですが、今までの行動から推測して判断すると、魔力の総量はともかくとして、彼の技術的な能力は私の理解を遥かに越えています。現状、単純な力比べであれば遅れをとる事はないと思いますが、今後の成長次第ではそれすら勝てないかも知れません」


言葉を選びながら話したつもりよ。


現時点ではまだ余裕をもって対処できる自信があるから、

恐れる理由は何もないわ。


だけど、今後の成長次第では

立場が逆転する可能性はあると思うのよね。


それに、単純な試合じゃなくて、

もっと命がけの戦いを想定するなら

現時点でもすでに負ける可能性はあると思う。


だからもしも試合じゃない戦闘になったとしたら?


技術面では負けてるわけだし、

勝てるかどうかは正直に言って自信がないわ。


「試合場でなら勝てると思いますが、それ以外の場所で戦闘になった場合は勝てないかもしれません」


そんな私の説明を聞いて、

理事長は密かに唇を噛み締めていたわ。


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