短い打ち合わせ
もう一度、秘宝を使って栗原さんを追跡してみると。
学園の廊下を歩く栗原さんの姿が見えました。
「はあ…っ。ったく、面倒臭いわね~。」
………。
なんとなくですけど。
すごく疲れてるように見えますよね。
精神的に病んでいるかのような、
そんなふうに見えるんです。
…話し掛けても大丈夫でしょうか?
周囲に人の気配はありません。
今は栗原さんの周りに誰もいないようです。
…今ならまだ。
きっと大丈夫のはずです。
…出来るだけ驚かせないように。
ゆっくりと話し掛けてみようと思います。
(栗原さん。)
「へっ?」
心の中で呼び掛けてみると。
突然聞こえた声に驚いた栗原さんが、
慌てながら周囲の廊下を確認していました。
…失敗ですね。
驚かせないつもりだったのに、
やっぱり驚かせてしまったようです。
(突然すみません。深海ですけど聞こえますか?)
「えっ?…って、やっぱり今の声って深海さんなの?」
(あ、はい。そうです。)
「ど、どこにいるのっ?」
(栗原さんの近くにはいません。今はカルナック山脈の中腹を過ぎた辺りにいますので…。)
「カルナック山脈に!?っていうことは、もうすぐ共和国に入るってこと!?」
(…そうですね。あと数分で国境を越えられると思います。)
「久し振りに声を聞いたと思ったらもう共和国にいるなんて…って、もしかして天城君も一緒にいるの!?」
(あ、はい。そうです。現在は二人でグランバニアを目指して行動しています。)
「グランバニアっていうことは、やっぱりグランパレスを目指してるのね?」
(そうなります。魔術大会に参戦するかどうかは分かりませんが、米倉宗一郎さんに会いに行く予定です。)
「ふ~ん。まあ、詳しい事情は知らないけど、突然話し掛けてくるなんて何かあったの?」
(あ、いえ…。こちらは特に何もないのですが、栗原さんが大変そうだったのでご協力しようかなと思いまして…。)
「え?協力?何をしてくれるの?」
(魔力の供給です。大会中に誰かの治療が必要となった場合に栗原さんに魔力を供給して治療を支援しようと思うんですけど…どうでしょうか?)
「ホントにっ!?手伝ってくれるのっ!?」
…あ、はい。
(今は私も総魔さんも魔力は十分にありますので供給するのは簡単なんですけど…。)
「是非お願いするわ!こっちは完全な人手不足で困っていた所なのよね~。」
(ええ、そのようでしたので声をかけてみたんですけど…。)
「ああ、そうなの?そっかそっか、見てたのなら話が早いわね。とりあえず私としては協力してもらえるのなら大喜びよ。無理にとは言わないけど、出来る範囲内で協力してくれると有り難いわね。」
(あ、はい。分かりました。それではまた機会があれば連絡させていただきます。)
「またって…もう終わりなの?」
(一応まだ山道を歩いている途中なので、あまり秘宝ばかり覗いてはいられませんから…。)
「ああ、そっか。まあそういうことなら仕方がないわね。とりあえず私も今日中にマールグリナを出発する予定だから、早ければ明日には再会できるかもね。」
(そうですか。それではグランパレスで…。)
「おっけ~。それじゃあまたね。」
…はい。
(お疲れ様です。)
栗原さんとの短い打ち合わせを終えてから秘宝の力を解除しました。




