遭遇する可能性
…ふぅ。
とりあえずは総魔さんの予想通りかもしれませんね。
…しばらくは大丈夫そうですね。
第2都市レーヴァの調査を終えたことで秘宝の力を停止しました。
そしてもう一度総魔さんに振り返ることにしました。
「近藤悠輝さんの調査も終わりました。」
「何か分かったか?」
「あ、はい。近藤さんはこれから立花光輝さんと一緒にグランバニアに向かうみたいです。」
「そうか。近藤悠輝もグランバニアに向かうのか。」
「向こうで再会するかもしれませんね。」
「その前に、このカルナック山脈で遭遇する可能性が高いだろうな。」
…あっ!
総魔さんに言われるまで気がつきませんでしたが、
確かにここで遭遇する可能性があります。
…近藤さん達は馬車で移動してるから。
どう考えてもカルナック山脈にいる私達に追いついてしまいます。
「ど、ど、ど、どうしますかっ?」
「近藤悠輝達が接近してきた場合は一時的に身を潜めるしかないだろうな。」
…隠れるんですか?
「それでも私達の魔力の波動を探知されてしまうと隠れられないと思うんですけど?」
「それなら問題ない。そもそも俺には魔力の波動が存在しないからな。例えすぐ傍をすれ違ったとしても気付かれることはないはずだ。」
…あ~、はい。
…確かにそうですね。
総魔さんの言葉の意味は私にも十分理解できます。
総魔さんには魔力の波動が存在しないからです。
魔術師であるはずなのに。
魔術師なら絶対にあるはずなのに。
総魔さんからはどんな些細な波動も感じらないんです。
改めて秘宝を通して魔力を確認してみても、
総魔さんには魔力の波動が存在しませんでした。
…どうしてでしょうか?
あらゆる力を扱えるから、
何かに偏るような波動が存在しないということでしょうか?
波動があるというのは何かに特化した力があるからです。
…ですが。
あらゆる力を使える総魔さんは完璧な安定を保っているために波動という変化がないのかもしれません。
「確かに総魔さんには魔力の波動が感じられませんので姿を隠すだけで大丈夫だと思いますが、私の場合は…。」
私には魔力の波動があります。
自分で言うのもどうかと思いますが、
膨大な魔力を抱えているせいで魔力の波動も大きくなってしまいました。
「私は姿を隠すだけだと、逃げ切れない気がするんですけど?」
「それも問題ない。」
不安を感じながら問い掛けてみたのですが、
それでも総魔さんはあっさりと否定していました。
「一時的になら魔力の波動を消し去ることが出来るからな。」
…え?
「どうするんですか?」
「俺が優奈の魔力を吸収すればいい。」
…えっ!?
…魔力を、吸収?
「出来るんですかっ!?」
「直接的には難しいかもしれないが、優奈自身が俺に魔力を供給すれば必然的に優奈の魔力が減少するだろう。ある程度まで減少すれば俺の力でも優奈の魔力を吸収出来るようになるはずだ。」
…あ、ああ、なるほど。
「つまり、私の魔力を一時的に総魔さんに預けるということですね?」
「ああ、そうだ。魔力が底を尽いて失われれば魔力の波動も停止する。」
…そっか。
私が魔力を失って波動が停止すれば、
近藤さん達に気付かれずに済むようでした。
「…と言うことは、近藤さん達が私達を通り過ぎて魔力を探知できる範囲外へ離れるまで魔力の波動を封じるということですね。」
「ああ、そうだ。近藤悠輝の実力を考慮すれば、およそ半径100メートル程度の探知能力しかないだろう。その僅かな距離の間だけやり過ごせれば俺達の存在に気付かれる心配はない。」
…なるほど。
総魔さんの特質と私の能力を合わせることで魔力の波動を隠し通すようでした。
…それなら大丈夫そうですね。
まだ近藤さん達が私達と同じ山道を通るかどうか分かりませんが、
もしも接近したとしても回避することは出来そうです。
「総魔さんにお任せします。」
「ああ、任せておけ。」
力強く宣言する総魔さんに全てを托すことにして、
レーヴァでの報告を再開することにしました。




