私は平気です
「これでもう、思い残すことは何もありません。」
「………。」
想いを確かめ合って。
たった一度のキスを終えたことで。
穂乃華さんは満足したようでした。
「これでもう安心して眠れそうです。」
「…もう逝くのか?」
「はい。私はもう十分すぎるほど幸せです。だから私の出番はここで終わりです。」
「このまま俺の傍に…。」
「…いえ。それは出来ません。」
「………。」
自分の立場を考えたうえで、
穂乃華さんは立花さんの言葉を遮ってまで断っていました。
「今の私では立花様を支えることは出来ません。だから立花様は新たな人生を生きてください。」
「…泣きたいとは思わないのか?」
精一杯の笑顔を浮かべて微笑み続ける穂乃華さんに問いかけていました。
ですが、それでも穂乃華さんの答えは変わらないようですね。
「私は平気です。」
決して変わることのない笑顔で答えていました。
「最後の時を悲しい思い出にはしたくありません。だから今はもう…涙なんていりません。」
とても優しい表情で。
とても素敵な笑顔で。
「これからもずっと応援しています。そして永遠にお慕いしています。この想いが…私の誇りです。」
誇り高く永遠の愛を誓ってから、
自らの消滅を受け入れていました。
「ありがとうございました。そして、いつまでも愛しています。立花様。」
「穂乃華…。」
「………。」
穂乃華さんはまっすぐに立花さんを見つめながら、
最期の言葉を残して消えてしまいました。




