思うだけで
《サイド:美袋翔子》
うわぁ~っ。
ようやく第1検定試験会場にたどり着いたわね。
何だか懐かしささえ感じるわ。
ついさっきまではここに来てもいいのかどうか悩んでいたんだけど。
ちゃんと自分の能力に気付けた今なら悩む理由は何もないわ。
今なら誰と出会ったとしても恥ずかしくないからよ。
そう思えるようになっているの。
だから。
気持ちを落ち着けるために呼吸を整えてみる。
久し振りにたどり着いた会場を前にして、何度も深呼吸を繰り返してみたの。
…って、言っても別に不安があるわけじゃないわよ?
怖いとかそういう感情はないわ。
そうじゃなくて。
自然とこみ上げてくる興奮を抑えるためよ。
ここが最後の会場で、
この会場に総魔がいると思うだけでドキドキが止まらないのよ。
体が勝手に緊張してしまうの。
総魔と再会できたらどうしようかな?って考えちゃうのよ。
だからなかなか一歩が踏み出せないでいるんだけど。
そんな私を真哉が無理矢理押し込もうとしてた。
「何を突っ立ってるんだ?さっさと行くぜ!」
「で、でもまだ、心の準備が…。」
「んなもん、あとでしろ!」
それだと順番がおかしいでしょ!!
思わず心の中で叫んでしまったわ。
でもね?
そんな私を気にせずにに真哉は会場内へと駆け込んで行っちゃったのよ。
はぁぁぁ…。
一人で残されてしまったわ。
ったく、もう!
ここまで来た以上、立ち止まっているわけにはいかないわよね?
決心して足を進めることにしたわ。
「ったくぅ。行くわよっ!行けば良いんでしょっ!?」
真哉を追い掛けようと思って走り出したんだけど…。
だけど入口を通り過ぎてからすぐに『どんっ!』って、真哉の背中にぶつかってしまったわ。
「痛っい~!!もう~!急に立ち止まらないでよっ!!」
不満を叫んでみたけれど。
「………。」
真哉は私に振り返る様子もないまま、前方の一点を見つめてた。
「ん~?何を見てるのよ?」
立ち止まってしまった真哉の視線の先を追ってみると…
「って?ええっ!?沙織っ!?っと、総魔ぁ!?」
二人が試合場で向かい合っていたのよ。
試合場に立って真剣な表情で向かい合う総魔と沙織。
何故か二人の間で、里沙が審判を行っているのが見えたわ。
これってどういうこと!?
どうしてこうなっているのかが分からない。
だけどね。
話を聞く暇もないまま、里沙が試合開始を宣言してしまったのよ。




