引きずり上げる
………。
………。
………。
穂乃果さんはどこにいるのでしょうか?
この近辺だけでも数十万もの人の命が失われていますので、
絶望や苦しみを遺して死を迎えた人達の想いが数多く混在しています。
そのせいで九鬼穂乃華さんの魂がなかなか見つけられませんでした。
…やっぱり私にはまだ使いこなせないようですね。
秘宝を預かってからたった一日では全てを見通すのは無理のようです。
「総魔さんはどうですか?」
確認のために尋ねてみると。
総魔さんはすでに何かを感じ取っている様子でした。
「この位置から北西の方向に強い意志の力を感じるな。」
…北西ですか?
総魔さんは九鬼穂乃華さんを知らないはずです。
だから何かを感じ取っても断言は出来ないのかもしれません。
「調べてみますね。」
総魔さんが教えてくれた方角に意識を向けて秘宝の力を発動させると。
…あっ!
すぐに九鬼穂乃華さんの存在に気づくことができました。
…この人が九鬼穂乃華さん?
私も本人は知らないのですが、
遺された想いが『あの人』に向いているのは感じ取れます。
「間違いないと思います。遺された意思はあの人に向いています!」
「…やはりそうか。」
「はい。すぐに吸収しますか?」
「ああ、頼む。」
「分かりました。」
総魔さんの指示を受けた私は、
九鬼穂乃華さんの魂に向けて右手をかざしました。
…一緒に来て下さい。
今回は龍脈や龍穴を通しての吸収ではなくて直接的な吸収になるのですが、
九鬼穂乃華さんの魂は無事に王城の跡地から私の中へ移動してくれました。
「回収に成功しました。九鬼穂乃華さんの優しい気持ちを感じます。」
今なら話し合うことも出来そうな気がします。
「説得してみますか?」
「いや、その必要はない。俺達が余計なことを話さなくても自らの意思であの男を動かすはずだ。」
…だと良いんですけど。
「心配する必要はない。翔子や沙織が望んだように九鬼穂乃華もあの男の生存を望むだろう。それだけで計画は前進する。」
…そうでしょうか?
本当にそうなのでしょうか?
しっかりと話し合うことも必要だと思うのですが、
総魔さんにその気はないようですね。
「では、これからすぐにレーヴァに向かうんですか?」
「ああ、そのつもりだ。そしてあの男をもう一度『表舞台』に引きずり上げる。」
…そうですか。
ミッドガルムでの最後の仕事としてすぐに移動するようです。
「レーヴァに向かうぞ。」
「はい。分かりました。」
色々と不安に思うことはありますが、
今は総魔さんを信じます。
「御堂先輩のために頑張りましょう♪」
「ああ、そうだな。」
明るく振る舞う私を見て、
総魔さんは楽しそうに笑ってくれました。
「これがミッドガルムでの仕上げになる。あの男の説得が成功次第、共和国に戻るぞ。」
「は、はいっ!」
いよいよ共和国に戻れるんです。
ジェノスへ帰れるかどうかは分かりませんが、
共和国には帰れるんです。
「楽しみですね。」
「ああ、そうだな。どういう結果になるかは分からないが、楽しみなのは間違いはない。」
私の意見に同意してくれた総魔さんは、
まっすぐにレーヴァの方角へ振り返りました。
「俺に残された役目はもうそれほど多くない。あと僅かになった目的を終わらせるために、急いでレーヴァへ向かおう。」
「はいっ!」
もう一度はっきりと頷いてから、
総魔さんと二人で旧王都を離れることにしました。




