大型の犬
………。
………。
………。
…あれ?
不意に目が覚めたのですが、
現在の状況が分からないせいで慌てながら体を起こしました。
…って!?
…えぇぇぇぇぇぇっ?
…な、何これっ!?
起きた瞬間に何かの上にいることに気づいたんです。
…これは一体、何なのでしょうか?
寝起きでまだ頭が動いていないということもあるのかもしれませんが、
それ以上に自分が何に乗っているのかがすぐには理解できませんでした。
…い、犬、なのかな?
見た目は大型の犬だと思います。
ですが私が乗っていても大きいと思えるこの犬は、
当然私よりもずっとずっと大きいです。
…これも精霊、ですよね?
こんな大きな犬がいるとは思えません。
…あ、いえ。
捜せばいるのかもしれませんが、
私は見たことがありません。
…総魔さんの精霊かな?
少しだけ戸惑いながら周囲を見回していると背後から総魔さんの声が聞こえてきました。
「目が覚めたか?」
…えっ?
声に気付いて振り返ってみると。
総魔さんは私が乗っている大型犬の後ろを歩いているようでした。
「あっ、す、すみません。総魔さん。」
「いや、気にするな。この程度なら大したことはないからな。」
…うぅ。
優しく微笑んでくれる総魔さんは、
我慢できずに眠ってしまった私を責めたりせずにいつもと同じように接してくれました。
「もうすぐ王都に着く。それまでは精霊に乗っていれば良い。」
「え?もう王都なんですか?それに…やっぱりこの犬も精霊なんですか?」
「ああ、そうだ。優奈が疲れているようだったからな。今回は犬の姿を持った精霊を召喚して優奈を運ばせることにした。」
「す、すみません。ありがとうございます。」
「気にするな。それより王都はもうすぐだ。まもなく夜になるが、今日中には九鬼穂乃華の魂を捜し出せるだろう。」
…えっと、でも、それは。
…まだあれば、ですよね?
王都に着いても魂が消滅していたら捜しようがありません。
「捜せますか?」
「問題ない。九鬼穂乃華の魂だけは捜し出すことが出来るはずだ。」
「そうなんですか?」
「ああ。今回は運が良かったと言うしかないが、九鬼穂乃華は兵器が発動する前に長野淳弥の手によって死亡しているからな。」
…あ、ああ、なるほど。
想いを遺せないまま死を迎えたわけではなくて、
想いを遺して死亡しているということですね。
「王都が消失したとしても、遺された想いまで消えはしない。」
…ですよね。
兵器の攻撃を受けて死亡したのではなくて、
長野さんの手によって死を迎えた穂乃華さんの魂はまだ王都に遺っている可能性が高いです。
「もしも兵器の攻撃を受けて死亡していたとしたら、魂は捜せなかったのでしょうか?」
「不可能とは言わないが難しいだろうな。それに、そもそも俺には魂を引き寄せる力がない。捜索程度なら出来るが、魂を吸収するのは無理だからな。魂の捜索が困難となった場合は優奈の力を信じて捜し続けるしかないだろう。」
…で、ですが。
「私は総魔さんと違って、魂を捜し出せるほどの力はないですよ?」
吸収は出来ますが、
総魔さんの導きがなければ特定の人物を捜し出すなんて出来ません。
「…ちゃんと遺ってると良いですね。」
王都に九鬼穂乃華さんの魂が残存していることを願います。
「上手く見付かれば良いんですけど。まずは王都に行かないと、あるかないかも分かりませんよね。」
「いや、優奈なら見付けられるはずだ。」
…え?
「例えどれほど困難でも秘宝の力を使えば見付けられるはずだからな。」
…あっ。
…そういえばそうですね。
総魔さんに言われて思い出しました。
…今は秘宝があるんですよね。
私自身に捜索の力がなくても、
秘宝を使えば見付けられるはずです。
…そっか。
…そうですよね。
もっと早く気づくべきだったと思いますが、
秘宝の存在をすっかり忘れていました。
「秘宝があるから大丈夫ですよね。」
「ああ、必ず見付けられるはずだ。想いを遺しているなら尚更捜しやすくなるだろう。」
「はいっ!頑張ってみます。」
捜し出せると信じて秘宝を強く握り締めました。
…総魔さんのために頑張ります。
全ては総魔さんのために。
…頑張りますっ!




