魔力の船
………。
………。
…ふぅ。
少し重い雰囲気になってしまいましたが、
ひとまず私達は大破壊の影響によって崩壊したミッドガルムの東部にまでたどり着きました。
「海ですね。」
消失してしまった大地の先は、
見渡す限りの海水で満たされています。
「とても静かですね。」
波の音だけが聞こえる夜の海。
他には誰もいないようですね。
淋しさを感じるくらいの静寂が世界を包み込んでいます。
まるでこの世界で私と総魔さんだけになってしまったかのようでした。
「これからこの海を進むんですよね?」
「ああ、そうなるな。」
私の問いかけに小さく頷いてくれた総魔さんは、
夜の海に右手を向けてから魔力に形を与えて一つの乗り物を作り上げました。
…これって、船ですよね。
総魔さんが作ったのはどう見ても船です。
全長は10メートルに届かないくらいでしょうか。
横幅は多分、3メートルくらいだと思います。
微かに光り輝く魔力の船が、
波に揺られて上下しながら海に浮かんでいました。
「船も帆もすごく立派ですね。」
船の上部で大きく広がる帆は、
海から吹く風をしっかりと受け止めています。
…魔法で船も造れるんですね。
総魔さんが造った船は漁船に近い形でしょうか。
決して大きいとは言えませんが、
二人で乗り込むには十分な大きさでした。
「これも精霊ですか?」
「ああ、そうだ。海風の自然現象を与えたこの船は俺の意思でどこまでも海を進むことが出来る。」
…なるほど。
…自由に動く船ですか。
「総魔さんは船も造れるんですね。」
私はミルクを召喚するだけで精一杯ですが、
総魔さんはあらゆる存在を作ることが出来るようでした。
「これも創造の力ですか?」
「ああ、そうだ。想像に魔力を与えることで創造する。それが俺の能力だからな。」
…すごいです。
あらゆる存在を生み出すことが出来る総魔さんは、
想像できる全てのモノを精霊として召喚出来るようでした。
「えっと…。総魔さんはどんな魔術でも使えるんですよね?」
「…本家には及ばないがな。」
…ああ、そう言えばそうでしたね。
本来の特性の持ち主には勝てないそうです。
吸収の能力では私が総魔さん以上の力を持ってしまっているように、
破壊や覇王や神秘や融合などのそれぞれの力を極めた人達には敵わないと聞いています。
それでもあらゆる力を使いこなせるというのはすごい長所だと思うのですが、
特定の能力に特化した人達の個別の能力には勝てないというのは短所でもあるそうです。
…だから。
総合的に考えれば最強と言える総魔さんですが、
個別にみると全てにおいて2番手ということになるようですね。
…それでもとてもすごいことなんですけど。
それなのに総魔さんは今の実力では満足していないようでした。
更なる高みを目指して。
常に成長を求めて。
今も様々なことを考えているようです。
そしていつか。
全ての能力を自由自在に使いこなせるようになるために。
魔術師としての成長を続けていくのだと思います。
…だとしたら。
…私ももっと頑張らないといけませんよね。
総魔さんに置いて行かれないように。
総魔さんと肩を並べていられるように。
私も強くならなければいけません。
…頑張ります。
これからもずっと努力を続けたいと心の中で誓いながら、
総魔さんと一緒に魔力の船に乗り込みました。




