餞別
「天城君。」
とても真剣な表情を浮かべる竜崎さんが総魔さんの正面で立ち止まりました。
「きみが僕達とは別の道を歩むと言うのならもう口出しはしない。だけどここで別れてしまう前に餞別としてこれを渡しておきたいんだ。」
…本気なのでしょうか?
餞別と言っていますが、
竜崎さんが差し出したのは秘宝でした。
…千里の瞳、ですよね。
世界にたった一つしかない貴重な物のはずです。
「これがあればきみはさらに強くなれるはず。そしてこれがあれば、きみはこの世界の全てを知ることも出来るはずだ。それこそ…竜道寺清隆の居所だって分かるんじゃないかい?」
それはそうかもしれませんが、
だからと言って秘宝を手放してもいいのでしょうか?
「…秘宝を手放すつもりなのか?」
「ああ、僕や紗耶香が持っていても完璧には使いこなせないからね。だけど、きみなら使いこなせるはずだ。そして、きみなら出来るのかもしれない。この世界に現存する全ての秘宝を探し出すことも、きみなら出来るのかもしれない。」
…世界中の秘宝を?
「俺に秘宝を探せと言うのか?」
そういうことなのでしょうか?
「いや、この秘宝をどう使うかはきみの判断に任せるよ。でもね。一つの可能性としてそういうことも出来ると思うだけだ。」
…なるほど。
確かにそうかもしれませんね。
「きみがどうするかはきみが決めれば良い。世界中に散らばる秘宝を探すのも、全てを忘れるために秘宝を破壊するのもきみの自由だ。」
どうやら秘宝の扱いに関しては総魔さんに一任するつもりのようでした。
「それと、これも渡しておくよ。」
秘宝を手放した竜崎さんは、
千里の瞳と対になる水晶玉も差し出していました。
「どちらもきみが持っていってくれれば良い。そしてきみの思うように使えば良い。これからどうするかは全てきみの自由だ。」
…そこまで、総魔さんを信頼しているんですね。
交渉の破談や決別という現実を受け入れながらも、
竜崎さんは秘宝と水晶玉を総魔さんに手渡していました。
「きみの進む道の先が幸福に満ちていることを祈っておくよ。」
最後まで友好関係を望んでいた竜崎さんは、
総魔さんの説得を諦めて交渉を断念したようでした。




