まだまだ未熟
………。
………。
………。
栗原さんが去ってから丸々一週間が過ぎました。
…あっという間ですね。
砦を出た栗原さんは、
私に宣言していたように森の中の目印を頼りにしながら、
砦を取り囲む樹海をあっさりと突破したようでした。
そして竜崎慶太さん達が滞在しているコンガの町に向かう途中で長野紗耶香さんが走らせる馬車に拾われたようで、
そのままジェノスに向かったのを確認しています。
「もう一週間が経つんですね。」
時が過ぎるのがすごく早く感じます。
…栗原さんは今どこで何をしているのでしょうか?
ジェノスで常盤成美さんの瞳を治療してからマールグリナに出発したところまでは水晶玉を通して見ていました。
長野紗耶香さんが所持している千里の瞳を通して確認することが出来たからです。
ですが栗原さんがマールグリナに到着してからは長野紗耶香さんが秘宝を持ったまま竜崎慶太さんの下に帰ったので、
そのあとの栗原さんの状況までは分かりません。
「魔力の波動は…」
栗原さんの魔力はマールグリナの方角に感じられますので、
今のところ心配する必要はないと思います。
「他の方も無事みたいですね。」
御堂先輩や常盤成美さんはジェノスにいますし。
フェイ・ウォルカさんはデルベスタにいます。
そして近藤悠輝さんはレーヴァに滞在しているようでした。
竜崎慶太さんや芹澤里沙さんがどの辺りにいるのかもある程度は分かるのですが、
私が感知できる魔力はあまり多くありません。
「やっぱり総魔さんのようには出来ませんね…。」
私に分かるのは『知っている人』限定です。
会ったことのない人の魔力の波動までは上手く識別出来ません。
全く感じられないというわけではないのですが、
どの魔力が誰なのかまでは自信をもって判断することができませんでした。
「総魔さんなら全て分かるんですけどね…。」
国境を越えた遥か遠くまで。
誰がどこにいるのか全て把握できるそうです。
…私はまだまだ未熟ですね。
そんなことに思いながら、
ベッドで眠り続けている総魔さんの傍に歩み寄りました。
「総魔さん…。」
何度呼び掛けても総魔さんは応えてくれません。
魔力を使い果たして倒れてしまったあの日から、
総魔さんはずっと眠り続けています。
…もう一週間が過ぎたんですよ。
「みんな…みんな総魔さんが目覚めてくれる日を…待っているんです。」
眠り続ける総魔さんの寝顔は、
あの日から一切変わっていません。
苦しみも喜びも何も感じていないかのように静かに眠り続けています。
…総魔さん。
私は信じています。
…いつか必ず目覚めてくれる日を。
…そして私と向き合ってくれる日を。
「ずっとずっと…信じています。」
この想いと気持ちを祈りに込めて。
沢山の人達の想いも想像しながら。
総魔さんの目覚めを願い続けました。
静かに側に寄り添いながら。
一心に寝顔を見つめながら。
…ずっとずっと。
総魔さんの目覚めを待ち続けました。




