5人の理由
「まあ、これでひとまず幾つかの疑問は解決したわね。」
満足そうな表情で何度も頷く栗原さんですが、
今はまだ幾つかであって全てではないようです。
「あとは…そうね。幾つか細かい部分も聞かせてもらおうかしら?」
…あ、はい。
「何でも聞いてください。」
「ん~。そうね~。それじゃあ、どうして私たちを選んだのかを教えてくれる?」
「それは5人の理由ですか?」
「ええ、そうよ。どうして私達なの?どうして他の人じゃないの?その辺りも聞いてみたいわね。」
…そうですか。
御堂先輩。
常盤成美さん。
栗原さん。
フェイ・ウォルカさん。
近藤悠輝さん。
その5人が選ばれた理由なら簡単です。
「本人が望んだからです。」
「本人?」
…はい。
「栗原さんの場合で言うと徹さんと琴平さんが栗原さんのために想いを残したいと願ったからです。沙織先輩と翔子先輩も同じですね。常盤成美さんのために想いを残したいと願ったからです。だからそれぞれの想いを叶えるために、総魔さんはみなさんの想いを集めて栗原さん達に送り届けたんです。」
「…って言うことは、天城君が選んだんじゃなくて兄貴達が望んだ結果が5人だったってこと?」
「そうみたいですね。総魔さんとしては米倉理事長の魂も米倉宗一郎さんに送り届けたかったらしいのですが、本人の意思で断られたそうです。」
「え?どうして?」
「そこまでは分かりません。総魔さんは教えてくれませんでしたので私も知らないんです。」
「ふ~ん。何か事情でもあるのかしら?」
…どうでしょうか?
「詳細は知りませんが鞍馬宗久さんも断ったそうです。他の方々も想いを遺すより消え去ることを選んだそうです。」
「へぇ~。その理由が気になるわね。」
…理由、ですか。
「私にも分かりませんが、おそらくは総魔さんのためだと思います。」
「どういうこと?」
「総魔さんは自らの限界を超える魔力を消費してまでみなさんに精霊を送り込みました。5人に精霊を送り込むだけで総魔さんの限界は越えていたんです。だからきっと総魔さんを守るために断ったんじゃないかと思っています。」
「あ~、なるほど。それはありそうね。」
…はい。
「実際にどうなのかは総魔さんに聞いてみないと分かりませんが、私はそう思っています。」
「ええ、私もそう思うわ。ただでさえ精霊を複数同時に召喚するなんて無茶なのに、全ての精霊に対して魔力を送り続けるなんて普通なら絶対に出来ないわ。まあ、だからこそここから動けなくなったっていう理由も納得できるわけだけど。奇跡の裏側には幾つもの理由があったわけね~。」
…ええ、そうですね。
「私や総魔さんの存在が秘匿されていたのも全ては事実を隠し通すためです。もしも私達がここにいることが誰かに知られてしまったら、誰かに妨害を受けて精霊の力が失われていたかもしれません。あるいは身動きのとれない総魔さんが殺されていた可能性もあります。」
竜崎慶太さんが対立している竜の牙の魔術師や、
秘宝を持ち去って姿を消した竜道寺清隆さんがここへ現れる可能性もありました。
だからこそ私と総魔さんは死亡したという扱いになっていたのです。
「私と総魔さんを守るために竜崎慶太さんや長野紗耶香さんは私達が死んだという情報を流してくれたんです。」
「そう、そこよ。そこも知りたかったの。どうして反乱軍は貴女達に味方をしたの?どうして命を危険に晒してまでアストリア王国から救出したの?」
私や総魔さんが竜崎慶太さん達とどういう関係があるのか?
その理由を問い掛ける栗原さんに再び説明することになりました。




