月の光のように
「最初に言っておきますけど。常盤成美さんに関しては私も詳しいことは知りません。」
「えっ?そうなの?」
…はい。
栗原さんには申し訳ないのですが、
私も詳細までお答えすることは出来ません。
私は常盤成美さんとお会いしたことがありませんし、
どういう方なのか知らないからです。
それに栗原さんがどういう魔術を完成させたのかも知りませんでした。
「ですが総魔さんが倒れる前に幾つかのお話を聞いていましたので、栗原さんの魔術が失敗することだけは分かっていました。」
「どういうことなの?」
…そうですね。
…どこから説明するべきでしょうか?
私もあまり説明が得意なほうではないので上手く説明するのは苦手なのですが。
疑問を感じる様子の栗原さんをこれ以上困らせないために、
最初に答えを伝えたほうが良いかもしれませんね。
「まず常盤成美さんに関してですが、彼女は潜在的に特性が覚醒し始めているようです。本人もまだ気付いていないようですが、彼女の能力が干渉した結果として栗原さんの魔術は失敗したと思われます。」
「成美の特性?それって何なの?」
「常盤成美さんの特性は反射です。」
「は…反射?」
…はい、そうです。
「常盤成美さんに精霊を送り込んだ時点で、総魔さんはそう判断したそうです。」
「反射って…魔術を反射するっていうこと?」
「それだけではないそうですが…。」
「ん~?どういうこと?」
「私も上手く説明できませんが、総魔さんは『月』に近い特性だと言っていました。」
「月?」
…だそうです。
「簡単に説明するなら、月は太陽の光を浴びて輝くことが出来るように、常盤成美さんは受けとった魔力や魔術を利用して反射することが出来るそうです。」
「それって…吸収と同じよね?」
…いえ。
「吸収は出来ないそうです。あくまでも魔術を反射する能力のようです。ですが一度でも経験した魔術は自由に使いこなせるようになると聞いています。」
「…と言うことは?沙織や美袋さんが消えた今でも身につけた魔術は自由に使えるっていうこと?」
…そのようですね。
「特性のおかげで常盤成美さんは魔術の知識がなくても直感的に魔術を発動することが出来るそうです。」
「ああ~、なるほど。そういうことだったのね。」
…はい。
一度身につけた魔術は決して失わないはずなので、
沙織先輩や翔子先輩が使えた魔術なら精霊が消失した今でも使えるはずです。
「太陽の光を浴びて輝く月のように、常盤成美さんはあらゆる魔術を身につけることが出来るそうです。そして自分の意志で自在に発動できるそうです。それはまるで月の光のように、与えられた力を自らの意思で使用できるそうです。」
「なるほどね~。だから成美は知らないはずの魔術を次々と発動することが出来ていたのね。」
「はい。だからこそ常盤成美さんは誰かの魔術を受けるということが難しいと思います。私もそうなので分かるのですが、私や常盤成美さんのような特殊な特性があると回復魔術まで弾いてしまうので、どれほど栗原さんが頑張っても治療は失敗してしまいます。」
「あぁ~!そういうことだったのね。」
栗原さんも魔術が失敗した理由が納得できたようでした。
「他人の魔術を妨害する特性を持っているから私の魔術が失敗したのね。」
…はい。
「そういう事情がありますので、栗原さんが治療を行っても成功しません。瞳を治療するためには常盤成美さん自身が魔術を使用する必要があります。」
「はぁ…。そういう理由だったのね。」
魔術が失敗した理由と常盤成美さんの特性を理解したことで、
栗原さんは自分の役割に気付いたようでした。
「…と言うことは、私はもう一度成美に会って治療のための魔術を教えないといけないわけね。」
「そうですね。常盤成美さん自身が魔術を使用すれば瞳の治療は成功するはずです。」
「お~け~。これで知りたかった疑問が解決したわ。」
…良かったです。
常盤成美さんの瞳の治療方法を知るという最大の目的を果たしたことで、
栗原さんは嬉しそうに微笑んでくれました。
「ありがとう、教えてくれたことに感謝するわ。」
…いえ。
「実際に治療が成功するかどうかは私にも分かりません。栗原さんの魔術が完成していて、常盤成美さんが使用できなければ瞳の治療は成功しませんので…」
「あ~、うん。まあ、その辺りに関しては私が何とかするわ。さすがにそこまで面倒を見てくれとは言えないしね。成美に関しては私が責任をもって解決するわ。」
「はい、よろしくお願いします。」
「ええ!任せておいてっ!」
常磐成美さんに関しての治療を笑顔で引き受けてくれました。
ですがまだ栗原さんの質問は続くようでした。




