4月30日の出来事
ここから優奈編になります。
お昼を過ぎて午後2時を過ぎた頃。
眠りについている総魔さんのベッドの傍に歩み寄って静かに寄り添いました。
「…総魔さん。」
何度呼びかけても眠り続ける総魔さんは目覚めません。
それでも私は総魔さんが目覚めるまで待ち続けることしか出来ないんです。
「…やっと終わったんですよ。」
他には誰もいない地下の一室で呟きながら、
総魔さんの手に自分の手を重ねました。
そして気持ちを落ち着けるために小さく息を吐きました。
…総魔さん。
…今日で戦争が終わったんですよ。
すでに終戦から数時間が経過しています。
第2都市レーヴァでの戦いが終わって、
大陸南部の戦争が終結したんです。
…総魔さんが望んでいた通りに、御堂先輩の戦いが終わったんですよ。
レーヴァの制圧に成功したことでミッドガルムを制した御堂先輩が終戦を迎えた瞬間を竜崎慶太さんから預かった水晶玉を通して見ていました。
長野紗耶香さんが常盤成美さんに預けた千里の瞳を通してずっと見ていたんです。
総魔さんの願いによって強制的に共和国に戻された御堂先輩の戦いをずっと見ていました。
…御堂先輩が勝ったんですよ。
「御堂先輩も、常盤成美さんも、ちゃんと生きています。」
二人とも無事に生き残ることが出来ました。
沙織先輩が愛した二人は無事に戦争を生き残ることが出来たんです。
…そして。
翔子先輩が望んでいた通りに共和国も守られました。
「翔子先輩が願った想いも全て叶ったんですよ。」
常盤成美さんの幸せを願い。
ご両親の無事を願い。
総魔さんの生存を望んだ翔子先輩の想いは全て叶えられたんです。
「それに、総魔さんが大切に想う栗原薫さんも生きています。生きてここを目指して近付いているんです。」
竜崎慶太さんに導かれてこの場所を目指している栗原薫さんも戦争を生き残りました。
「もうすぐ…もうすぐ会えるんですよ。」
徐々に近付いてくる再会の時を感じながらも総魔さんに語り続けました。
「…だけど。これはまだ始まりなんですよね?私や栗原さんの戦いも、総魔さんの戦いも…これから始まるんですよね?」
私がどれほど話し掛けても眠っている総魔さんは何も答えてくれません。
意識を失って眠りについている総魔さんの考えや気持ちを知ることが出来ないんです。
…ですが。
私達の戦いがまだ終わっていないのは確かです。
私達にはまだ、戦わなければいけない理由があるからです。
だからこそ総魔さんは常に先を見据えて、
次に挑むべき戦いのために準備を進めていました。
…全て順調に進んでいます。
総魔さんの計画通りに。
総魔さんの予想通りに。
…全て進んでいます。
今はまだ戦争という名の戦いが終わりを迎えただけです。
…だから。
…だからまだ。
総魔さんが望んだ結末は訪れていません。
今もまだ総魔さんの願いは続いているんです。
「翔子先輩が遺した想いに応えるために。総魔さんは待っているんですよね?御堂先輩が最後の舞台にたどり着く時を…ずっと待っているんですよね?」
お互いの心を分かち合えるたった一人の親友の御堂先輩が最後の舞台にたどり着く時を、
総魔さんは今でも待ち続けているはずです。
…総魔さん。
意識を失ったままベッドで眠り続けている総魔さんを見つめていると。
………。
地下室近付いてきていた栗原さんの足音が扉の前で止まる気配が感じられました。
「ありがとう、ミルク。」
栗原さんの道案内役として樹海の入口から砦の地下室まで案内してくれたミルクが地下室の前まで帰ってきてくれたんです。
そのことに気付いて『ありがとう』と呟やいた瞬間に。
「…久し振りね。深海優奈さん。」
地下室の扉を開いて室内に入ってきた栗原薫さんが私の名前を呼びました。




