精一杯生きるために
急いで控室の扉を開けてから机の上に置いてあるエプロンを手にとりました。
「ギリギリ…かな?」
エプロンを身につけながら時計に視線を向けてみると。
時計の針が午前10時を指そうとしていました。
「あと3分だね…。」
予定していた時間よりもすごく遅くなってしまいましたが、
ここで後悔しても過ぎた時間は戻りません。
「遅くなった分は一生懸命に働くしかないよね。」
迷っても悩んでも仕方がないんです。
今の私に出来ることは一つしかありません。
「今日も精一杯頑張るよ!」
慣れた手つきでエプロンを身につけてから鏡の前に立ちました。
そして背後のエプロンの結び目がおかしくないかを確認してから、
まっすぐに鏡と向き合いました。
「どこもおかしくないよね?」
全力疾走してきた汗も今はちゃんと乾いてます。
見た感じだと髪もはねてないですし。
特に気になることはないはずです。
「大丈夫かな?」
心臓は今でもまだすごく早く動いていて呼吸もまだ少し苦しい感じがあります。
それでも鏡に向かって微笑んでみると、笑顔はちゃんと作れました。
「ちゃんと笑えるよ。」
疲れきった表情はしていません。
ちゃんと笑えています。
「まだ頑張れるんだよ。」
疲れたなんて言ってられません。
「準備おっけ~♪」
荷物を全て机の上に置いてお仕事の準備を整えてから、
一度だけ大きく深呼吸をしました。
…うんっ。
…もう大丈夫♪
何とか呼吸も落ち着いてきました。
「あと1分。」
あと1分で10時になります。
「さあ、今日も一日頑張るよ~!」
今日という日はまだ始まったばかりです。
そして私の一日はここから始まるんです。
…精一杯頑張るからね。
…お姉ちゃん。
…翔子さん。
今まで私を支えてくれたお姉ちゃん達に精一杯の感謝の気持ちを感じながら扉の前に立ちました。
…私はもう大丈夫だよ。
だから。
…だからもう安心していてね。
私はもう大丈夫です。
これからもずっと生きていけます。
…みんなが私を大切にしてくれるから。
いつかみんなに恩返しをするまで、
私はまだまだ死ねません。
…だから、ね。
幾つもの悲しみを乗り越えて。
幾つもの絶望を乗り越えて。
…私も前に進むよ。
そのために。
…行ってくるね♪
どこまでも続く未来に向かって進んで行こうと思います。
…さあ、始めるよ~♪
今日という一日を精一杯生きるために。
伸ばした手にホンの少しだけ力を込めて扉を開きました。
そして大きく息を吸ってから、
笑顔でお仕事に向かうことにしたんです。
「いらっしゃいませ~♪」
精一杯の声で挨拶をしながら店内を進んで、
今日もお花屋さんでお仕事をさせていただくことにしました。




